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今がイエスタデイ、踊ろうタコのよーに

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鴨川の鳶を知ってるか。
 知らない。
 一回見に行かん。
 どうやって。
 おまえの家を出て。
 できない。
 何で。
 この家が好きだから。好きだから心配かけられない。
 一回、見に行かへんか。一度でいいから。
 …。
 裏の神社の道をまっすぐ進んでいけば、一歩き、猫の道を通れば、三歩きで着くよ。
野良として今まで生きてきた近藤くん(彼にたまにごはんをくれていた今はもういないおじいさんの名前らしい)と、ぬるま湯みたいな幸福と平穏の中で生きてきた私の歩きは全然違う。きっと、近藤くんの一歩きが私の三歩きくらい。こうして庭でヒヨドリを眺めながら(あんな鳴き声を聴いてしまったら、食べようとなんて思えない)、近藤くんと次々にすきなうたを歌っているほうが私にはいい。そう思ったけれど、鴨川の鳶を知ってるか、と言う近藤くんの目の奥には、私の知らない冷たい風が吹いていて、冷たい風のその奥に、オクトパスガーデンを歌う時の愉快な近藤くんと、私がザ・サークルゲームを歌うのを聴いているときの、真面目に目を瞑った近藤くん、それからその奥に、私の知らない、どんな顔をしているのかも知らない近藤くんがいたので、二回目を断るのによど んだ。
「おまえ歌ってるやん。チャーイルドケイムアウトトゥワンダー。今がイエスターデイやねんて。」
「何で、サークルゲームなの。」私は、近藤くんの目の奥にうたう自分、聴くさ近藤くんを見ていたことを見透かされたのかと思って、心臓がぎゅっとなるのを感じた。近藤くんはもちろんそんなことには構いもしないで、
「トゥスロウザサークゥズダウン~やって。」
「遠い子の話よ。遠い人間の遠い子の話よ。遠いところよ。遠い。猫なんてひとことも。」
「そんなこと、理由にならんよ。」
「そうじゃなくて。これはお話なのよ。」
「鴨川の鳶、見たら、そのお話におまえの好きなもの、つけられるで。」
「なによ。」
「軽くて甘くて汗っぽくてピリッとしててぐるぐるしてて軽くてぴょんぴょん」
「何言ってるの。」
「だから、行こう。今がイエスターデイ、明日はトゥデイ。サークゥズダウン。」
 喋りながら、近藤くんの目はオクトパスガーデンを歌う目になっていた。私が一番好きな近藤くんの目だ。イエスターデイ、トゥデイ、サークゥズダウン。チャーイルドは人間の子供。だから私は安心して、イエスターデイ、歌っていたのだ。

――――――――――――――。

鴨川の鳶を見た帰り道、オクトパスガーデンを歌いながら、あるいはラウンデンラウンデン、歌いながらわたしたちはスキップした。