瞬間移動で同窓会へじゃーーんぷっ
最近、新しくスマホに変えてみた。
巷に溢れているよくあるアプリよりも
マイナーなアプリを入れて自慢したいと探していた時に
【瞬間移動 アプリ】
は見つかった。
アプリを起動すると、地図の画面が開かれる。
>瞬間移動先をタップしてください
「ああ、こういうちょっとしたゲームか。
地図の風景を表示して気持ちだけは
瞬間移動させるっていうものなんだろうな」
海外のパンフレットを買って、旅行気分を味わうみたいな。
試しに、自分の近所をタッチしてみた。
>瞬間移動先は100km圏外のみです
「遠っ! なんだこの条件」
説明を読んでみると、
100km圏内に瞬間移動すると遭遇するから、とある。
まったく意味が分からない。
だったら、と海外の場所をタップする。
その瞬間。
「うそだろ……?」
目の前にはピラミッドが立っていた。
周りから聞こえる声は完全に外国語。
冗談半分だったのに、まさか本当に瞬間移動するなんて……。
今度は自分の家を地図上でタッチすると
ふたたびさっきの場所へと舞い戻った。
それからは瞬間移動をしまくっての旅行し放題。
たまにアプリの不具合なのか地図をタッチしても
>そこにあなたがいません。
と表示されて瞬間移動できないこともあったが
そんなのも気にならないほど楽しい。
「今日のみに行きませんか?」
「ああ、悪い。今日の夜はパリに行く予定なんだ」
「パリって……ここから飛行機で何時間あると思ってるんです?
明日も仕事があるんですよ!?」
「大丈夫だよ、俺はこれがあるからな」
俺は後輩にスマホを見せて、パリへと向かった。
パリから帰ると家に1通の郵便が届いていた。
【同窓会のお知らせ】
大学の同窓会のお知らせだった。
懐かしいなぁ、みんなどうしているだろうか。
普段なら、実家のある地方まで戻って
わざわざ同窓会に行くなんて手間したくなかったけど
今はアプリがあるから迷うことはない。
○参加する 参加しない
俺は参加するに○をつけて、手紙を返信した。
「みんな、どうなっているかなぁ」
楽しみに待っていると、日が経つのはあっという間で
気が付けば同窓会当日になっていた。
「よし、行くか」
ちょっと早いけれど、我慢できなくなり会場へと瞬間移動。
まだ誰も来ていない会場でどきどきしながら待っていた。
「うぃーす」
ふすまが開かれて続々と懐かしい顔ぶれがそろっていく。
もう声をかけずにはいられなかった。
「おお! 徳井! 元気にしてたか! なんだよ、その髭は!」
「お、おお……」
「美紀ちゃん! 大人っぽくなったじゃん!」
「そ、そうね……?」
あんなに仲良かったのに、どこかよそよそしさを感じるも
地元を離れたってのもあるから仕方ないんだろう。
人数が集まると同窓会は賑やかにはじまった。
けれど、みんな周りをきょろきょろと見回している。
まるで誰かを探しているみたいに。
「誰か探してるの?」
「ああ、うん。返信用の封筒には参加するって書いていたんだけど。
前田のやつがまだ来てないんだよ」
前田は俺の苗字。
ははん、わかったぞ。
「あれれー? 前田がまだ来てない~~って、おい!
ここにいるじゃないかーい! 無視せんといて~~!」
俺は会心のノリツッコミを放った。
「……いや、お前じゃなくて。
というか、お前誰だよ。その顔、知らないぞ」
「えっ」
一気に会場は水を打ったように鎮まり、俺を見ている。
「誰って、前田だよ!」
「整形したとしても……そこまで顔は変わらないだろ」
「まさか名前を語って何かする気じゃ……」
「待ってくれよ! 俺は前田だって言ってるだろ!?」
「じゃあ、鏡見てよっ」
美紀ちゃんが鏡をずいと俺の前に突き出した。
鏡面に映っていたのは、俺とは似ても似つかない別人の顔。
「これ……誰だ……」
この冷たい空気に耐えられなくなって、
俺はアプリを起動してどこか別の場所をタッチする。
瞬間移動。
「はぁっ……はぁっ……!
いったい、なんなんだ……」
顔を上げると、たまたま目の前にショーウィンドウのガラスに自分が映った。
その顔は、同窓会の時とはまた違った姿だった。
「なんだよこれ……誰だよ」
原因はひとつしかない。
アプリを起動して説明文を読み直す。
長くスクロールした先で、俺の見落とした説明文が入っていた。
※このアプリは実体を瞬間移動するものではありません。
魂のみを目的地にいる誰かの体へ瞬間移動するものです。
それによって元の体を見失っても責任は負いかねます。
作品名:瞬間移動で同窓会へじゃーーんぷっ 作家名:かなりえずき