普通の世界
さっき今朝いちばんの鳥がするどく鳴いた。
どこかでごとごととトラックが荷を運んで走っている。
電車にはすでに出勤する人々が乗り込み始めている。
街路樹の枝の中に新緑が準備される。
ジョギングにいそしむ人々がいる。
仕事をいま終えて帰宅する人々がいる。
山奥のみずうみにかかる樹の梢から、雫がしたたり落ちる。
太陽がゆっくりと昇ってきて、雲間で隠れん坊をする。
漁船が海原から港に帰ってくる。
鉢植えが覚め始める。
子どもたちのための朝食が作られ、食卓にのぼる。
飛行機が遠い異国へとむけて離陸する。
隣国では戦争と硝煙の匂いが漂っている。
野原では最初のたんぽぽが朝露に濡れている。
わたしのたばこが一本消され、紅茶が少しだけさめて、減る。
いま、まさにこのいま。
世界がいかなものであろうと、いま、まさに。
すべてのことが決定され、すべての花が咲き、すべてが結実し、
すべてが崩壊し、すべてが変わらない。
動き続ける世界のひとこま、それがいま。
あたたかい部屋にいられる不思議を思い、
普通の世界のうつくしさを思う。