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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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How to 人生の完璧な生き方

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「ああ、私は本当にママに向いているのかしら。
 子育てはきっと大変なのよ。
 私みたいな人間に務まる気がしないわ」

「お前は考えすぎなんだよ」

子供が生まれるまであと数ヶ月。
お腹の胎動でその時期が刻一刻と迫っているのがわかるが、
自分にママが務まるのか、それが心配でならない。

学校の成績はよくないし、
人間関係も得意な方ではない。

そんな私が子供を産んで育てるなんて……。


不安にかられて、ネットで情報を探していると
気になる通販が目に入った。

『ハウツー人生』

内容に興味を持ち、さっそく申し込んだ。
数日後に1冊の本が届いた。

広辞苑ほどもある大きなハードカバー。
でも、この重厚感が安心させてくれる気もする。
"これさえあれば大丈夫"みたいな。

「えっと、ママになるまでのハウツーは……」

<良いママになるためのハウツー>
・ママ友を作るのがいい母親です
・子供の成長記録をつけるのがいい母親です

「なるほど、これをすればいいのね」

さっそくハウツー本にしたがって、行動を起こした。
子供を迎える準備を済ませて、出産に備える。

「これで、良い母親になれるはずね。
 あっ、そうだわ。正しい家族の形も学んでおかないと」


『ハウツー人生』にはどんなことも書かれている。

あるべき家族の姿の項目ももちろん書かれている。


<良い家族になるためのハウツー>
・家族の間で定期的なイベントがある
・お互いの教育方針が一致している ...

などなど、項目はずらずらと続く。
私はひとつひとつ、ミッションをクリアするように進めていった。

「なあ、毎週家族で出かけるとか、辞めないか?
 それに、毎朝"愛している"って言うのも恥ずかしいよ」

「あなた、なにを言ってるの?
 ハウツー本に書かれている良い家族の在り方なのよ。
 生まれてくる子供にも、この環境が良いって書いてるわ」

不満を言う夫をなんとか説得する。

正しい説得方法が『ハウツー人生』に書かれていた。
これさえあれば、何も不安なことはない。

そんなある日……。


「うっ……! 痛いっ……! 生まれるっ……!!」

予定日よりずっと早くに陣痛が襲い掛かった。
すぐに病院へと担ぎ込まれる。

「あなた……本を……! ハウツー本を持ってきて……!」

「こんな時に何言ってるんだ!?」

「このまま子供が生まれたら、正しい接し方がわからないわ!!」

私の剣幕に気おされた夫は家に本を取りに戻る。
『ハウツー人生』を手に入れてからは、正しい力み方を実践する。


おぎゃあ! おぎゃあ!!


「おめでとうございます、元気な女の子ですよ。
 抱っこしますか?」

「はい……あ、でも待ってください。
 正しい抱っこの仕方を読みます」


<良い抱っこのハウツー>
・バランスを崩さないように支える
・首を動かさないように固定する


「OKです」

私はハウツー本を片手に子供を抱っこした。

「これがママでちゅよーー」



子供の成長は早いもので、どんどん大きくなっていった。
子供の成長段階に応じて『ハウツー人生』が
正しい教育の方法などを教えてくれるので困ることはなかった。

「いつ、この子は言葉を話すんだろうな」

「女の子は話し始めるのが早いって本に書いているわ。
 だから、もうそろそろじゃないかしら」

よちよち歩きを始めた娘は、ついに私たちの期待に応えた。

「ママ、ママ」


「話したわ! ママって! ママって言ったわ!」
「でも、これって……」


娘は『ハウツー人生』の本に向けて"ママ"と言っていた。