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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「父親譲り」 第十八話

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「私だって最初から旅行に誘われて、この人はどういう人なんだろうって感じましたよ。でも、自分が選んだ人だから自分のことを好きになってくれる人だったら間違いないって考えようって思いました。沙代子さんも今黒田さんが好きだという気持ちを話されたので素直に信じて受け止めてあげたらいいと思います」

「美津子さん、私は黒田さんのような真面目で優しい人に好きになってもらえるような人間じゃないって・・・そんなことも考えたの」

「ええ?沙代子さん、どうしたんですか?あなたらしくないですよ」

「どうにかしているかも知れないね。心から好きと言われたことが無かったからかも知れない。とっても不安なの。全部を話してそれでも気持ちが変わらなかったら、私はついて行きたいって」

「沙代子さん、全部を話すことは必要ないですよ。ボクも美津子さんに言いました。これからの二人のことが一番大切な事なんだと。お互いの生活や両親のことが今考えるべきことじゃないですかね」

「笹川さん、気持ちではそうだと思うんだけど、本当のことがいつか解ることが怖いの。美津子さんは変な言い方だけど当然のことで離婚して、いいお相手に巡り合って再婚をする。私は黒田さんに堂々と話せるような生活をしてきた訳じゃない。ずっとこの歳までどうして独身だったの?って聞かれて正しく答えられないもの」

「じゃあ、ここでお話されたらいい。ボクも微力ながらお聞きして黒田さんに助言したいって思いますから」

「黒田さん、お話しても構わない?」

黒田は沙代子の顔をじっと見ながらその事の返事をした。

「沙代子さん、亡くなった妻は病気が発覚するまで浮気をしていたんです。証拠を押さえたわけではありません。限りなくそう感じていたんです。しかし、がんになって余命宣告されて、彼女は話したいことがあると言いました。
今は治療に専念する時だから、治ってからその話はゆっくり聞こう、と言いました。解りますか?」

「黒田さん・・・そんなことがあったのですね。奥様謝りたかったのですね」

「それは聞く機会が無くなったので解りませんが、ボクは妻が亡くなった時に何を話したかったのかなどということは考えもしませんでした。それは悲しかったからです。そして、今もその話が何だったのかということを思い出したりすることはありません。妻は最後までボクの妻だったんです」

初めて聞く話に沙代子は涙した。

*次回最終回となります。