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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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恋するジャンク。

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空腹で目が回りそう。
ただ、いま最も欲する「イージーかつガツンとしたもの」は無い。
「イージーでガツン」とはファストフードであり、栄養価なんてどうでもいい。
望み通りの熱と量と塩気油気があればいい。


先日人の物が欲しくなった。
いわくだんなさんが電話で話していた相手の食事。
いわく肉まん。
にわかにいてもたってもいられなくなった。
たった今それを食べなければと。
白く頼りなく手にあまる皮の熱さ、裏切らない塩気の効いた餡。
同時にピザまんも食べたくなった。
同時についでにアメリカンドックも食べたくなった。
アメリカンドック!
あんなに体に悪い美味があるだろうか?
調べればホットケーキの材料にソーセージをくるんで油で揚げたものだ。
あの生地の懐かしいあまみにも合点がいく。
うまいわけだ。手作りなんてくそくらえって気分になる。


野菜が食べたいな、などと思う機会が増えた。
ただ、おひたしだの煮物だのはもともと苦手で、好きなのはカレーだのハンバーガーだのピザだのパスタだの、よくテレビで見る体重500キロのアメリカ人の好みみたいなやつ。
体重500キロにならないで済んでいるのはなけなしの自制心でしかない。
いちおうの女としての牙城。
それでもわたしは苦心しながらジャンクを抑えている。
旨い煩悩。
法蓮草やきゃべつを食べてると、それこそ雲水みたいな気持ち。つらい。
こんなのじゃねえ、と。


肉まんやアメリカンドックが、ふいとレンジの中に現れたら、
今夜はなんにもいらないんだけれど。
レンジは黒くつややかに、彼もまた空腹であることを告げるのみ。
今週、夜桜を見に行く。
あそこにはコンビニがあった筈。
そこで肉まんとアメリカンドックに会おう。
きっとわたしを待って、ホットフーズの棚の中に、いるだろう。
かぶりつけばきっと哀しいだろう。
なんでかわからない。
我が身がいまもいとしいジャンクを欲するその喜びに対する確認作業。
それに尽きるのかも。
まだ、ジャンクを愛せる。
また、春が来る。
作品名:恋するジャンク。 作家名:青井サイベル