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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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大失敗!致命的ビフォーアフター!

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両親が死んだ。
引きこもり生活の俺も遠からず死ぬだろう。
でも、働きたくはない。
ここで残った人生を生きてそのまま朽ちて死ぬ。

俺が思い描いていたのはそんな末路だった。


「なんだ……この風景」

でもちがった。

目を開けると、電柱の頂点が見下ろせた。
動こうにも動けない。

体を動かすのをあきらめて、
周りを見渡して自分の状況を探ってやっとわかった。

「俺……家になってる……」

引きこもりすぎた俺は、ついに家と同化した。

※ ※ ※

「こちらの物件はいかがですか?」

「パパ―! 私、この家がいい!」
「おいおい、まだ内見もしてないだろう」
「あの、前の家族が死んじゃったとかないですよね?」

「ええ、大丈夫ですよ。
 引きこもりの息子はいましたが失踪しましてね。
 ここは家具も家電もそのままになっているんです」

いますよ、ここに。

俺の体の中に、新しい家族が入っていく。
父親と母親、そして娘の三人家族。

俺の家族にはなかった「家族らしさ」がある。

家になってから、月日の流れが早く感じる。
眠ってしまえば、数年たっていることもしばしば。

まあ、変わらない風景を見続けるだけの日々なんて
普通に過ごしていたら頭おかしくなるから好都合だけど。

「決めました、この家に決めます」

俺の体を這いまわった家族は、俺の中に住むことを決めた。


数日後、家族は引っ越して俺の中で暮らし始めた。

「ああ、もうくすぐったい。
 壁に落書きしやがってるなぁ」

体の中で、娘が落書きしているのが肌越しに伝わってくる。
でも、俺がどうこうすることはできない。

毎日、俺の体を出入りする家族たち。
最初こそ1日1日をなんとなく監視していたけれど
慣れてくると体のなかを駆けずり回る人のことなんてどうでもよくなった。

ぼーっとしているうちに、娘はどんどん成長し
両親はみるみる老けていった。


「……そういえば、なんか体が静かだな」


鈍い俺が気付いたのは、娘が帰ってこなくなって数年後だった。
俺の体感としてはつい数日前のことだけど。

俺の体の内側から響いてくる声はぐっと静かになって
たまに、体の中に誰もいないんじゃないかと思うほど。

「結婚、したのかなぁ」

きっと今俺の体の中には、
老夫婦がお茶でもすすりながら静かに暮らしてるんだろう。

なんだか、今の俺みたいな生活だ。
お茶とか飲めないけど。



体の外に誰も出なくなった。
例によって俺が気付いたのはずっと後だと思う。

黒い車が通ったような気がする。数時間前に。
たぶん、実際には数年たっているだろうけど。

「ああ、死んじゃったんだ」

俺の体の中は最初の空き家へと戻った。
老夫婦だけになってからは、
体の中に誰かいる感覚はなかったので、落差はないけど。

また新しい人が来るのかなと思っていた。
でも、誰も来なかった。

何年も、何十年も時間が過ぎる。

鈍感な俺でも自分の「老い」を感じ始めた。
屋根はハゲていく。
骨はぼろぼろになり。
皮膚はぐずぐずになっていく。

もし、嵐なんて来たらおしまいだ。

「よお」

急に声をかけられて俺はびっくりした。
隣の家だった。

「まさか自分が家になるとは思わなったけど
 私と同じ境遇の人がいるなんて、さらにびっくりだ」

「それは俺のセリフだ」

俺以外にも家になった人間がいるなんて。

「あんた、もうそろそろ撤去されるんだってな」

「撤去? なんで?」

「あんたみたいな古い空き家があると、
 こっちが迷惑するんだよ。崩れて私まで壊れたらたまらない。
 最近、やたら建築士がお前のところに来てるしな」

「知らなかった……」

ほぼ眠ってばかりいたから、
俺の様子を見に来ている人がいたなんて。

「ま、近々壊されるだろうから覚悟するんだな」



隣の家の言う通り、業者が数日後にやってきた。
ゴツい重機が何台も道をふさいでいる。

「よし、やるぞ」

1人の男が指示を出すと、重機が一斉に動き出す。
ああ、死ぬのか。俺は……。

パワーシャベルが皮膚に突き立てられる。
大きな鉄球が骨を砕いていく。

もう立っていられなくなった俺は、
がらがらと音を立てて地面に顔をこすりつけた。

「ああ……これが人間の目線だったっけ……」

家の目線になれていた俺は、
人間の目の高さにわずかな懐かしさを感じていた。


まもなく、俺の体はがれきの塊になった。


※ ※ ※

「これはね、元の家の廃材で作ったんですよ」

「わぁ、ありがとうございます!」

目を開けると、低い目線に驚いた。
いや、それよりも俺がまだ死んでいないことにも。

ここは家……いや、家の中だ。

「かつての家は、ここで第二の家として生きていくんですよ」

「さすが匠です、ありがとうございます!」

目の前には、建築士とみられる人と大人の女性。
この顔、どこかで見覚えがある……。

そうだ! あの家族の娘!
こんなに大きくなったんだ!

「ママ、見せてみせて!」
「わぁーーすごーーい!」

3人もの子供が、俺のそばへと駆け寄る。
子供までできたんだ。

親じゃないけど、自分の娘の成長を実感する。

あの男の言葉じゃないけれど、
俺はこの家で第二の人生をまた見守れるんだな。

それは悪くないのかもしれない。

でも……いったい俺は、何になっているんだ……?




『なんということでしょう!
 匠の粋な計らいで、かつての家の廃材は
 おしゃれな便器へと生まれ変わりました!

 ここで家族の汚れを受け止め続けるのですね!』