ノベリストの便利新機能
毎日、自分の作品作りにばかり忙しくて、コメントなんて入れていなかった。
とか、思いつつも今日も自分の投稿だけでいっぱいいっぱい。
「よし、投稿、っと」
[作品を投稿する]ボタンを押して、
作品をノベリストの海の中へと放流する。
>作品の添削が完了しました
「……あれ?」
見慣れた赤文字じゃない。
作品の投稿が完了しました、じゃないのか?
すぐに投稿した作品を読み直す。
今回だけ、たまたまメモ帳に保存していてよかった。
>僕は大きな鉄扉をゆっくrい開けた
>僕は大きな鉄の扉をゆっくり開けた
「あ、直ってる」
なにこの便利機能!?
勢い任せに書いている俺はかねてからタイプミスが多かった。
特に誰からも指摘されず、後になって自分で気づくことが多い。
ノベリストにこんな機能が付いたなんて、便利すぎる。
「これなら、なにを投稿しても
誤字脱字を指摘される心配もないぜ!!」
俺はますます作品を投稿するようになった。
・
・
・
それからしばらくして、俺の作品は人気になった。
以前までは質もバラバラだったのもあり、
浮き沈みの激しかったランキングも安定するようになった。
「やっぱり、誤字脱字が直されているのって大事なのかなー」
書き手としては内容さえわかれば、
極端な話、文章なんて整っていなくてもいいかなと思った。
でも、文章のミスがあると
読み手の印象は悪くなるのかもしれない。
なんにせよ、添削機能さまさまだ。
>作品の添削が完了しました
今日も作品を投稿する。
「あ、そうだ。やっぱりあの展開、変えておこう」
投稿した後で、ふと思いついた。
オチを変えたほうがずっと面白いはず。
俺は投稿したての作品の編集画面を開いた。
「……あれ? なんか違うぞ?」
読んでみてなにか違和感を感じた。
熟読してみると、ところどころの展開がカットされて
俺の書いた地の分も差し替えられている。
「ここまでくると、添削じゃないだろ!」
原因はひとつ、添削機能だ。
でも、投稿前の作品データは残していない。
投稿フォームに一発書きしたのが失敗だった。
試しに、次の作品はバックアップを残して投稿してみる。
すると、やっぱり展開が勝手にカットされていた。
自分でも気に入っていた文章
>その響きは蒼きビオロンの調べに似ていた...。
も、ごっそりカット。
「これじゃ、誰の作品かわからないじゃないかよ!」
>最高の作品でした!
>今年最高の名作!
>天才ですね!
「うう……悔しい……」
悔しいことに、評価はうなぎのぼり。
きっと添削機能は最初から作品の編集も兼ねていたんだろう。
俺の作品に高評価が付き始めたのも、機能実装後だった。
つまり、俺は添削機能がなければ、良作を書くことなどできない。
「ってそんなわけあるかぁぁぁ!!」
俺を甘く見るなよ、ノベリスト。
これまで、どれだけの作品を書いたと思ってるんだ。
添削で勝手に編集されなければ、
もっといい作品が書けるに決まってる!
新しい作品を書くと、先に自分の目でチェックを入れた。
誤字脱字を自分で直し、
説明の足りない部分は文章を加えて、より良く手を入れた。
忘れずに、添削機能をOFFにして投稿。
>作品の投稿が完了しました
「ふふっ、結果が楽しみだ!」
もしかして、今日の人気小説に並べられたりするかも?
いやいや、それだけじゃなく「今週の」の牙城を崩せたり?
どれだけの評価が来るのか楽しみだ。
0pt。
「えっ……」
投稿から数日たっても、評価は全然つかなかった。
結果はまさかの低評価。それもどん底だ。
俺はそっとカーソルを添削機能ボタンに近づけた。
>新着コメントがあります!(3)
赤字につられてクリックする。
>面白かったです!
>とても勉強になりました!
>また書いてください!
コメントを見ていて涙が出た。
暖かい読者の存在と、自分のちっぽけさに。
いつから俺は評価のために書いていた。
いつから俺は人気のために書くようになった。
自分の思いをたくさん込めた作品を書けばいいじゃないか。
こうして、俺の作品に暖かいコメントを書いてくれる人がいる。
その人のために、書けばいいじゃないか。
俺は添削機能をOFFのままにした。
「さて、どんどん書くぞ!」
※ ※ ※
「運営委員長、新機能どうですか?」
ノベリストの運営スタッフは確認を取る。
「添削機能は上々だな。
作品をより良いものに添削してくれているよ」
「もう一つの方はどうですか?」
運営委員長は添削機能の2つめの結果を調べた。
「コメントの添削機能も上々だ。
ちゃんと、コメントを好意的なもののみに直してくれてる。
投稿者もコメントにおびえることなく投稿しているよ」
作品名:ノベリストの便利新機能 作家名:かなりえずき