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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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明日の記事は、オレ一色!

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新聞屋さんなんてまだあったのか。

ふらりと入った小道。
自分の近所なのに新聞屋があったことに驚いた。
今でも買っている人はいるんだろうか。

ガラス戸越しに見える新聞にちょっと惹かれて中に入ってみた。

「おお、新聞こんなにあるんだ」

「いらっしゃい」

いくつもの新聞が種類別に分けられている。
ひとつを手に取ってみる。

『飼い犬の散歩中に旧友に遭遇!』

なんだこのどうでもいい記事は。
内容も個人的というか、身内ウケという内容ばかり。

どこの新聞社だと確認すると。
「佐藤健人 新聞」と書いてある。聞いたこともない。

「あの、この新聞……」

「うちは個人新聞のみ売ってるんだよ。
 あんたの新聞はそこだ」

店主に指さされた先にある新聞を広げる。
そこには俺の名前の新聞が用意されていた。

『まさかの残業で終電逃す!!』

「これ……俺の昨日のできごとだ!」

誰にも話していない個人的な事情が事細かに書かれている。
これはすごいな。

ふと、カウンターを見てみると
見開き新聞ほどの大きさのクリアファイルが置かれている。

新聞の持ち帰り用のものだろうか。
あれと、この新聞、買って帰るか。

「すみません、この新聞とクリアファイルください」

「明日クリアファイルね。はいよ」

「明日クリアファイル?」

「明日の新聞を作れるんだよ」
「は?」

よく意味はわからなかったが
外は雨が降っていたので、クリアファイルに新聞を入れて帰宅。

家でゆっくり読むつもりだったが、
実際、買って帰ると読まないまま放置していた。

買ったことで安心してしまったんだと思う。

翌日、いつも通り仕事に行った。
その夜。

「すまないな、緊急で残業してくれ」

「えええ!? いや終電が……あれ?
 この展開、どこかで……」

朝から感じていた既視感がはっきりとわかった。
俺は昨日とまったく同じ理由で終電を逃した。

家に帰ってみると、床に置きっぱなしの新聞が目に入った。

「明日クリアファイル……。
 まさか、この中に新聞を入れれば明日が新聞通りになるのか!」

俺は慌てて新聞屋に走った。
自分の新聞をごっそりと買い占める。

「こんなにどうするんです?」

「いいこと思いついたんだ」

大量の新聞を持ち帰る。
そして、ハサミで過去の新聞から欲しい記事を探す。

『最高! 大成功の合コン!』
『まさかの大当たり!? 宝くじ!』
『超感動! 新作映画を視聴!』

過去の新聞から記事を切り抜き、
クリアファイルの中にスクラップしていく。

それらを合わせて1枚のツギハギ新聞を作った。

「これでよし、明日が楽しみだ!!」


翌日、俺の予想は見事に的中した。

明日クリアファイルに入れた俺のスクラップ記事。
その通りに1日が過ぎていった。

「いやぁ! 楽しかったなぁ! 最高だ!」

これなら毎日が幸せ間違いなしだ。
良い思い出をいくつも重ね合わせて最高の明日を作ってみせる。

 ・
 ・
 ・

「で、お前仕事しなくていいのかよ」

「わっははは! いいんだよ!
 金がなくなれば、また給料日の記事を切り抜いて
 明日を作れば金はいくらでも!」

「ははは、それずりぃな」

友達との飲み会もこれで30日目。
過去の最高の合コンを切り抜いて30回明日を作った。

仕事も、日常も、なにもかも最高だった。

不満があるとすれば……飽きが出始めたくらい。

なにせすべての明日は、過去の寄せ集め。
最低でも1度でも体験した内容だけだ。

「さて、そろそろ記事もたまってる頃だな。
 新しい俺の新聞が追加されているだろう」

ふたたび新聞屋に入る。
いくつもの新聞が並べられている店内で
自分の新聞の一角を探す。

「……あれ?」

ない。
なぜか俺の新聞だけが一部も入ってなかった。

「おい、ちょっと!
 ひどいじゃないか! なんで俺の新聞だけないんだよ!
 ちゃんと過去新聞を入荷してくれよ!」

すると、店主は不思議そうな顔になった。

「いえ、入荷はしてます」

「はぁ!? だったらどうして入ってないんだよ!」

店主はしばらく考えて、思い至ったんだろう。
カウンター横のクリアファイルを指さした。


「もしかして、あんた、昨日ばかり繰り返してなかったか?
 過去ばかり繰り返す人間に、
 新しい未来が来るわけないだろう」



「そうか……そうなのか。
 わかったよ、俺は未来を作ってこなかった。
 過去だけを何度も味わっていたんだ」

怖かったんだ。失敗が。
まだ見えない明日が来るくらいなら、
先が見える昨日を寄せ集めたほうが怖くなかった。

「わかりましたか?
 大事なのは過去に目を向けることじゃないんです」

「ああ、わかった」

何もかもを反省した俺は……。



他人の過去新聞に手を伸ばした。

「って、人の過去を自分の明日にするなぁぁぁ!!」

店主は丸めた新聞紙で俺をぶっ飛ばした。