一粒
一粒の言葉が生れ落ちた
唇から自然な引力で
果実のこぼれるように
満ちた水滴の落ちるように
そうでなければならぬように
落ちた言葉は芥子の色をぱっとひらいた
とりどりに明るい、ただしい色が
夜明けのような全き芥子の色が
世界を花と広げた
一粒の言葉よ
それは眠るあなたの安らかな息
その輪郭をこわごわ指でふちどってみる
明日消える可能性だってある
儚い、けれど永く世界を席巻しかねない
勇敢な魂、
健気なる命よ、
有難い
有難い
その一粒が今日も今、世界を咲かせたのだ
露すらたたえて
有難い
有難い
あなたはたった今、生まれた
ああ わたしはだから泣く
悲しいからでは決してない
いまを見よ
ユリイカ
この美しさにわたしは圧倒されている
ユリイカ
一粒の大輪の素は
あ から始まる Aから
0であり1であり∞へ連なる
「愛してる」
「有難う」
人よ
その言葉の粒を
ゆめいたずらに無下にするな
てのひらに 軽やかに重んじよ
あなたを乗せて天空へ翔けあがる
龍の卵