イメージ 〈詩集〉
雪柳
ユキヤナギという小説を
あのひとをモデルに書いた
読み返したら懐かしくなって
あのひとの住む町に行きたくなった
春の陽気がそうさせたのだろう
行ってどうするかも考えずに
白い花を穂のようにつけた
雪柳の枝が揺れている
それが手招きと言い訳をして
あのひとの店がある横丁に入り込む
この町を離れてもう20年以上
ただ眺めて通り過ぎるのだと
自分に言い聞かせても
何かを期待している
白い花を穂のようにつけた
雪柳の枝が店の前にもあって
それは花がまばらで寂しい
あのひとが店から出てきて
雪柳の木に水をあげる
見えた横顔に刻まれた皺に
声をかけそこねて通り過ぎた
通り過ぎた学校の庭にある
桜の花さえも寂しく見えた