小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

全国愚ッ痴ボール決勝戦

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「さあ、全国日常ドッジボール大会はついに決勝!
 この試合に勝った方が全国で一番となります!

 それではチームを紹介しましょう」

片側の入り口からは、真っ黒のユニフォームで選手が入場。

「前回覇者にして、絶対王者!
 チーム『ブラック企業』! 対するは~~」

今度は別の入り口から鬼のお面を付けた選手が入場。

「今大会初出場にして、決勝戦に出場!
 チーム『恐妻家』チーム!!」

屈強な男たちが横に並ぶと、
会場はものものしい雰囲気に包まれた。

「ルールは簡単です。
 ・全滅したチームの負け
 ・日常の愚痴をぶつけ合う
 というのが日常ドッジボールです」

チーム間の中央に立つ審判が再度ルール確認。
そして、ひとつ愚痴を漏らした。

「娘が最近口をきいてくれない」

審判の愚痴はたちまち丸いボール状になる。
それを上空に笛音とともに放り投げる。

「さあはじまりました!
 日常ドッジボール大会!
 最初にジャンプボールを制するのは……恐妻家チーム!」

恐妻家チームは愚痴ボールに力を込めて、
思い切り敵のブラック企業チームへと投げる。

「カミさんの飯がまずいけど、意見言えない!!」

――ヒット!


「休日は俺よりもごろごろしている!!」

――ヒット!


「パチンコ屋に並んでいる妻を見た!!」

――ダブルヒット!


「おーっと! これは波乱の幕開けです!
 歴戦のブラック企業チーム、
 いきなり内野を大きく減らしています!
 このまま恐妻家チームの勝利となるんでしょうか!?」

ついに、ブラック企業チームの内野はわずか1人。
対する恐妻家チームの内野はフル人数。

勝敗は誰が見ても明らかだった。

「あーーっと! 見てください! 仁王立ちです!
 ブラック企業チームの最後の選手、仁王立ちしています!
 これはどういったことなのでしょうか!?」

恐妻家チームは愚痴を弾に込めてぶつけに行く。


「妻が出す料理は、犬の方が高級だ!」

勢いよく放った愚痴ボールは、
ブラック企業チーム最後の一人の前でぴたと止まった。

「ぬるい! ぬるすぎる!
 こんなもので修羅場を潜り抜けてきた俺は落とせない!」

最後の男はボールをつかむと、今度は反撃に打って出た。


「毎日サービス残業14時間!!」

――ヒット!


「給料は月に10万円!!」

――ヒット!


「休日は毎日サービス出社、休みなし!!」

――トリプルヒット!


「あーーっと! さすがは王者の品格です!
 次々に逆転していきます!
 恐妻家チームがどんどん減っていきます!」

「なにが恐妻家か!
 ブラック企業に勤めることの方が
 ずっとずっと大変に決まっているだろ!
 お前らの愚痴ボールを受け止めるなんて簡単だ」

形勢逆転。
恐妻家チームもついに残り1人となってしまった。

やはり、苦労の経験値が違いすぎる。

このまま恐妻家チームがどんなに愚痴を貯めこんだボールを投げたところで、
その程度の苦労じゃびくともしない相手を倒すことはできない。

「最後のサービスだ、ボールを譲ってやろう」

ブラック企業チームはボールを恐妻家チームへ。

「なんということでしょう!
 ボール権を相手にゆずりました!
 しかし! 先ほど簡単に捕球されたのを見ると
 ボールを投げたところで意味はないのでは!?」

ブラック企業はふたたび仁王立ちの姿勢へ。

「さあ、お前の最大の苦労を見せてみろ。
 そのうえで、俺が看破してやる」

恐妻家チームはそっとボールを取る。

「恐妻家チームはボールにどんな愚痴を込めるのでしょう!!」

そして……。


「昨日、電車で美人の横に……座れた!!」


「あーっと! なんということでしょう!
 あろうことか、愚痴を込めずに良い話を込めました!
 これでは捕りにくいどころか、簡単に取られてしまいます!

 ……いや! 違います! 狙いは相手ではありません!」

恐妻家チームの放ったボールは、
ブラック企業の頭上を越えて外野のもとへ。

受け取った恐妻家・外野は、
次々にいい話を込めながらボールを回していく。


「息子が3歳の誕生日だった!」

パス。

「宝くじで1000円当たった!」

パス。

「昨日見た映画が楽しかった!!」

パス。



「目にもとまらぬ怒涛のパス回しです!
 いい話を込めることで外野に受け止めやすくしています!
 いったいどこから球が飛んでくるんでしょう!」

球の行方を必死に目で追いかけるブラック企業。
あまりの早さにとても追いつけない。

そして、ボールは再び内野にパスされた瞬間!!


「嫁に、財産全部、持っていかれたぁぁぁ!!!」



――ヒット!

渾身の愚痴ボールが、ブラック企業チームの内野を捉えた。


「ゲームセット! 勝者は恐妻家チームです!!
 息もつかせぬ良い話パス回しで油断させたところを、
 最高の愚痴ボールで相手を仕留めました!
 落差を作っての波状攻撃! すばらしいです!」

劇的な大逆転勝利に、会場は全員が立ち上がって拍手を送る。
負けたブラック企業チームも拍手していた。

「素晴らしい試合だった。
 この1戦は間違いなく、最高の日常ドッジボールの試合だろう」

両チームも熱い握手を交わした。
恐妻家チームも愚痴を散々発散して、晴れやかな気分だった。

「鬼のような嫁と結婚して、
 はじめていいことがあったと思うよ」

恐妻家チームはみな満足げな顔をして会場を後にした。




「あ! たったいまこの最高の試合が
 全国でテレビ放送が決まりました!
 お茶の間のみなさん、楽しみにしていてくださいね!」


会場を出た恐妻家チームはすぐに会場へ戻って来た。

「まずいまずいまずい」
「めっちゃ愚痴言っちゃったよ!」
「もう家に帰れない!!」