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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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FLESH & BLOOD(肉と血)

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とうとう、胃カメラを飲んできた。
早朝、一般診察の前に行っておどおどしながら待つ。
「青井さーん」
その看護師の声で、慌てて立ち上がる。
入ると複数のベッドがしつらえてあり、カーテンで間仕切りがしてある。
寝て待てと言われる。
果報は寝て待ちたいが、胃カメラは寝て待ちたくない。
すぐ、やって。
即、やって。
今、終わらせて。


やがて看護師さん(わたしとしては「看護婦さん」と呼びたい)が何かしらを持ってきた。
その「何かしら」をもうすでに見たくない。
「はい、じゃあ麻酔鼻に入れますからね、鼻から飲んでください」
!?何をおっしゃるんだこの看護婦さんは?
鼻は出すところで入れるとこじゃないの、ねえ、やめてお願い。
内なる願いも届かず、すかさず鼻の穴の中にシュコシュコ。
う。苦!
「次のは苦いですよ、がまんして飲んでくださいね」
嫌!イヤイヤイヤ!
シュコシュコシュコ。
苦い!苦いったら苦い、うおおおおおおおおおおおおおおおおお
「最後はゼリー状ですよ、これも飲んでください」
まだあんの?
ねろり。
あれ?これバニラエッセンス味だ。うん、いける。これなら先の苦苦を補える。


待つ。
戦々恐々とした気持ちをなだめるために、保健室方法を取る。
いわく、白い天井をつぶさに眺めることだ。
医療の場の天井は、白い。子供の頃の保健室から入院中の部屋の中まで、
天井はいつもトランキライザーだった。
自分は無力で、ただ然るべきことを待つしかないのだということを、淡々と想いながら。
そして何故かナースもののAVを思い出してしまい、少しむらむらした。


「青井さーん」
きた。ああ、どうしよう。
診察室にはいつものはつらつとしたT先生がお待ちかね。
「じゃ、やろうか。ちょっと頑張ってね」
嫌だ。
わたしは成人してこのかた、ただの一度も「頑張った」ことなどない。
いまさらそんなこといわれても。
目をつぶっていると、
「はい、左手ぐっと握ってください」
ぐっ。
ちく。
痛ってえ!!
そして意識は消えた。まるで画面がふと消えるように。


いつ終わって、どのように元の席へ戻ったか覚えていない。
再び呼ばれて、
「ちょっと赤いけど、問題ないね」
膝カックン。内臓は赤いと言われて、そりゃそうだろうと言うしかない。
帰りに、ペロくんとスーパーに寄ってカルビとアネモネを買った。
カルビはご褒美、花もご褒美。
家に帰って焼いて、飲みながら食べた。
紅茶の缶にとりどりの花を飾って、眺めながら。



なんだか、すべての人に、ものに、感謝してた。
その幸の縁の下には、時にちょっとした苦痛が必要なんだ。きっと。