ハハッ♪ 任侠ランドだよッ♪
「ああ、そうだよ」
任侠ランドにはそこかしこに派手なスーツを着た
見るからにやくざな人が歩いている。
ときおり、抗争なども起きて派手な銃撃音も聞こえる。
もちろんすべて、任侠キャストで銃も偽物。
そうはいっても迫力は本物以上。
「パパ、ブラッド・スプラッシュマウンテン乗りたい!」
「ああ、いいとも」
アトラクションのところに行くと、銃を渡された。
「ええか、敵のタマ、とってくるんやで」
「わぁ、楽しみだね、パパ!」
「ああ、頑張ろうね」
アトラクションが動き出し、周りにはやくざが湧いて出てくる。
それを渡された銃で必死に応戦していく。
撃たれたやくざはその場で倒れ、
親分もしくは子分がその体にかけよる。
「無茶しやがって! 死ぬんじゃねぇ!」
「アニキ……へへ、後のこと、頼んます……」
「何言ってやがる! 子供はどうするんだ!
おい、山口! 山口ぃぃ~~!!」
死んだ山口の人生がプロジェクションマッピングで映される。
ひとりひとりの人生を追った任侠らしい演出だった。
「すごいね、パパ! ドラマチックだね!」
「ああ、思っていた以上に面白いな」
かたき討ちや男の弔い合戦などを体験し尽くして、
アトラクションは終わった。
「あっ、パパ! パレードが始まるよ!」
「おお、もうそんな時間か」
任侠ランドの中央へと急ぐ。
真っ黒いリムジンがゆっくりと園内を巡回する。
客は全員頭を下げて「お帰りなさい、親分」と言う。
これが任侠ランドのならわしだった。
「それじゃ帰ろうか」
パレードが終わり閉演時間が近づくと、親子は家に帰った。
帰りの車の中でも息子の興奮は冷めていなかった。
任侠ランドのどこが楽しかったのかを熱弁していた。
あげく、ついには……。
「パパ、僕、あそこで働いきたい!」
とんでもないことを言い出した。
「それだけはダメだ!」
「なんで? あんなにかっこいいのに!」
「キャストはみんなやくざなんだぞ!
あんなところに就職したら普通の生活は送れない!」
「知ってるよ、でも、あれが男の生き方だよ!」
「とにかくダメだ!」
小さいころは親の命令は絶対なので、
頭ごなしに納得させられた。
じきに任侠熱も冷めてくるかと思っていたが、
学校の修学旅行の行き先が任侠ランドだと知って凍り付いた。
「まさか……」
嫌な予感は的中し、修学旅行後に学校に呼び出された。
先生との三者面談で、息子の進路希望用紙を見せられた。
「これなんですが……。
息子さんの第一志望が"やくざ"と……」
「おまっ……やくざ!?」
「だってかっこいいじゃねぇかよ。
今の大人にはない男同士のつながりがいいんだよ」
「もっとちゃんとしたところにしろって!」
「ちゃんとってなんだよ!
サラリーマンか!? 土木作業員か!?
なんで親父が仕事に優劣つけてるんだよ!」
「とにかくダメだ!」
この一件で、息子は口を聞かなくなってしまった。
おそらく、親に黙ってやくざになり、
既成事実を作ることで納得させるつもりなんだろう。
「……なんとか、息子の目を覚ませられないかな」
「あなた、だったら本物を見せればいいのよ。
あの子は現実のやくざを知らないから憧れてるのよ」
「なるほど」
父親は警察関係者に連絡して、
やくざ摘発の瞬間を息子と一緒に同行することにした。
息子としても、あこがれのやくざが見れるとして大いに喜んだ。
「あれが……やくざ……!」
使われていない倉庫で、何やらマフィアとやくざが話し合っていた。
実際のやくざは任侠ランドの面影もなかった。
なんなら、マフィアの方がそれらしかった。
「どうだ? 本物のやくざは?
任侠なんてかっこいいものでも、男らしいものでもない。
ただの暴力団なんだ」
「うん……」
武装した警察が入ってくると、やくざは抵抗することなく逮捕された。
息子にかかっていた任侠ランドの魔法が溶けた瞬間だった。
「親父、俺、間違っていたよ。
もっと別にかっこいい職業はあるんだな」
「やくざはあきらめたか?」
「うん、もうやくざになんてならない」
父親は安心して家に帰った。
数日後、父親は再び学校に呼び出された。
「息子さんの第一志望が、
やくざからマフィアになってるんですけど
お父さん、いったい何を見せたんですか……?」
作品名:ハハッ♪ 任侠ランドだよッ♪ 作家名:かなりえずき