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スイッチ

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ぼくの仕事はスイッチを押すことです。
 机の上に設置された、一般的な電灯のスイッチのようなそれ。それを毎日八時にオンにして、二三時にオフにする。それだけの仕事。その業務さえこなしていれば、それ以外の時間は何をしていても自由。生活の一切も保証される。そんな割のいい仕事。
 ただ、この仕事を受ける時、こう忠告を受けました。
「必ず時間を守ること」
「必ず毎日スイッチを押すこと」
「そうしないと大変なことになる」
 ぼくはきちんとそれを守りました。忠告してきたその人の顔が、至って真剣でしたから。この忠告を守らないと、何かとてもまずいことが起きるんだな、と思ったのです。どんなことが起こるかは知りませんし、分かりません。それでも不安になるには十分でした。
 ぼくは毎日スイッチを押しました。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。つけて、消して。
 もう何回それを繰り返したか知れません。僕は毎日スイッチを押しました。
 単純な業務でしたが、それほど苦にはなりませんでした。何せ、スイッチをオンにしてオフにする、それ以外の時間は自由に過ごしていいわけですから。遊んだり、ゴロゴロしたり、気が向けばアルバイトなんかをしてみたり。
 そして一日のはじめと終わりにスイッチを押す。それだけで、ぼくは仕事による充足感を得られました。本当に、割のいい仕事でした。

 ある日、世界が滅亡しました。

 ぼくがスイッチを押す意味はなくなりました。もとからなぜ押すのかは分かっていませんでしたが。でも世界が滅亡したのならきっと、スイッチを押す理由もまた、滅亡してしまったのでしょう。
 だけど、ぼくはスイッチを押すのをやめることができませんでした。どうしてでしょう。あの忠告が頭の中に残っているからでしょうか。それとも、これがぼくの仕事だから? ぼくはそんなにも、この仕事に執着していたのでしょうか?
 分かりません。でも、この仕事をやめてしまったら、何か大変なことが起こる気がするのです。例えばそう、ぼくがぼくでなくなるような、ぼくの生きる意味がなくなるような、そんな大変なことが。
 ぼくはスイッチを押し続けています。
 わずかに残っていた人類も、刻一刻とその数を減らしているようです。僕も、もうすぐ死ぬのでしょう。体がすっかり痩せ細って、もう骨と皮ばかりです。喉が渇きました。目の前がぐらぐらします。それでも最期の時まで、ぼくはスイッチを押し続けます。
作品名:スイッチ 作家名:梅花