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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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お化け長屋

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「ここなんかどうかなあ」
「いやぁ、高えよ」
さっきから不動産屋をめぐっている若い二人の男は、ユウジとエイジ。
双子そろってこの春から同じ大学に進むことになった二人は、夢の都会暮らしを始めようと物件探しに余念がないのだが、なかなかいい所が見つからない。
 そうこうするうちにいつの間にか商店街の外れまで来てしまった。
「この不動産屋で最後かな、この町」
なんだか荒れ果てた雰囲気のその店に、二人は恐る恐る入ってみた。サボテンがいたるところに置いてある。
「いらっしゃい」
金歯の目立つ老婆が出迎え、二人に椅子を勧めた。
「物件お探しですかね」
「ええ、できれば駅から近くて、できるだけ安いとこお願いしたいんですが」
老婆は古式ゆかしい帳簿を閉じて、安っぽいファイルを取り出した。
「ここなんですがね」
二人は頭をくっつけてファイルを覗き込んだ。
「なになに・・・駅徒歩三分、風呂トイレつき、6畳と4畳半で南西角部屋で3万?」
「エイジ、ここにしよう!」
「絶対間違いないの、ここ?」
「確かな物件ですよ」
「よし、決まりだ!やったー、最高!今まで苦労した甲斐があったよ!」
 二人は即座に契約すると、両親に連絡したり、実家に帰って荷物をまとめたり、さっさと引越しの算段をつけてしまった。



 新しい部屋に引っ越して三日目のこと。
しくしく・・・しくしく・・・
 そのか細い泣き声に深夜気づいたのは、ユウジもエイジもまだ寝付いていなかったからだ。
「隣かなあ・・・」飲み物でも飲んでまた寝ようと台所の電灯のスイッチを点けると、食卓でうつぶして泣いている女性がいた。
「なっ・・・」二人はかちんとその場に凍りつき、しかし、その女性が顔を上げた瞬間、
めろめろととろけてしまった。
女性は絶世の美女で、年の頃は彼らと同じくらいだろうか。
「どうかしたんすか」
「ハラ痛いんですか」
女性は優しく声をかけられたことに驚いたのか、泣くのをやめて二人を見た。
二人はコーラを注いだりエアコンをつけたりぱたぱたと立ち回って、また彼女のもとへ。
「なんでも言ってください」
「エイジうるせえぞ、そういうことはオレが」
「何を言う、オレが」
二人が言い合っているうち、いつの間にか女性は消えてしまった。
「あっ、行っちゃったみたい」
「見た?すっげえ可愛い」
「また来ないかなー」
女性は、夜毎現れ、その都度二人は、女性と少しずつ仲良くなっていった。
彼女の名はあやめ。彼氏に捨てられて、悲しくて悲しくてここにいるとのことだった。
「こんなきれいで優しいあやめちゃんを置いて行くなんてサイテーだよな」
「とんでもないっすよ」
あやめはまた泣き出した。
「あやめちゃん」
「うれしいの。二人とも優しいから」
「よかったら三人で暮らそうよ、ずっとさ」
「ユウジ、お前は出てけ」
「なにおう」
そんなこんなしながら結局三人は、仲良く日々暮らすようになった。あやめは料理や家事をこまめにしてくれたので、二人は恐縮しつつも大助かりだった。



 ある日、大家さんが訪ねてきた。
五十年配のその男性は、健康そうな二人を不思議そうに見ながら、
「あのう・・・何か困ったことはありませんかね?」
「いいえ、全然ないです」
「おかげさまで快適に暮らしてますよ」
大家さんは首をかしげながら帰っていった。
それを見届けると二人はドアを閉め、振り返って叫んだ。
「さーあやめちゃん、ウノの続きやろうよ!」
「はーい」
 このごろすっかり血色もよくなったあやめが、台所にすーっと現れた。
作品名:お化け長屋 作家名:青井サイベル