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四方山サラダボウル 第1話

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「あっ、はい。ありがとうございます」
 お茶が入ったグラスを目の前に置いてくれた。麦茶かな?
 逆側にもう一つのグラスを置いて座る。真っ赤な液体が入っている。
「散らかっててごめんね」
「そんなことないですよ。窓が僕の部屋と違うなぁって思いましたけど」
「・・・気になる?」
「まぁそれなにり」
「そうだよね〜」
「元々ですか?」
 思い切って聞いてみる。気になるし。
「ううん、私が頼んだの」
「・・・自分から?」
「もちろん。日光苦手だから特別に塞いでもらったんだよね〜」
「そうなんですね・・・」
 日光が苦手?何かの病気なのかな?理由はどうあれこれ以上聞くのは野暮かな。
「そんなことより、飲んで飲んで!」
「いただきます」
 美味しい、麦茶だ。喉が渇いてたみたいだ、一瞬で飲み干してしまった。
 空になったグラスを置く。朱血さんも美味しそうに赤い液体を飲んでいる。
「ぷはぁ〜!やっぱりこれだな〜」
 そんなに美味しいのか、その赤いやつ。
「あっ、これトマトジュースね!」
 視線に気付いたのか説明してくれた。トマトジュースをそんなに美味しそうに飲む女の子初めて見たよ。
「ちなみに紙袋の中身がこれだったんだよ!重かったでしょ?本当ありがとう!」
 道理で重いわけだよ。
「トマトジュース好物なんですか?」
「好物というか・・・。そうだな〜、簡単に言うと代用品かな!」
 代用品?なんの?
「血の代わりに飲んでるんだ〜」
「はい?」
「私さ〜、恥ずかしながらまだ血を吸った事なくて〜」
「・・・まるで吸血鬼みたいですね」
「違う違う!吸血鬼じゃなくて吸血姫だよ!まぁ半人前だけどね」
 さっきから何を言っているんだこの子。
「それでさ、お願いがあるんだよね、蓮君に。」
「なん・・・ですか・・・?」
「あなたの血を吸わせて!」
「冗談でしょ?」
「こんなこと冗談で言うと思う?」
 向けられる無邪気な笑顔とは裏腹に、言いようのない不安が僕の体を包み込んでいた。
「ねぇ、ちょっとだけだから!お願い!」
 そんなことを言いながら僕に近づいてくる。
「いやいやいやいや・・・」
 距離を取ろうとする僕に、朱血さんが覆い被さってくる。
 たまらず僕は押し倒される。
 年頃の男に覆い被さる年頃の女の子。普通ならこんなシチュエーションたまらないだろうけど、今の僕にはそんな感情は一切なかった。あるのは恐怖という名の感情だけ。
「・・・やめましょう、こういうの」
「なんで?」
「僕ら出会ったばかりだし」
「関係ないよ、そんなの」
「それに、それにね。吸血姫の部屋に入ってくるのが悪いじゃん!」
「そんな理不尽な!」
 僕に引っ付いてくる。
「あの、離れて」
「いただきます」
 鈍い音とともに味わった事のない痛みが左腕を襲った。
「いっっっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
 思わず叫んでしまった。なんだよこれ。この子腕を噛んでる?
 声に反応したのか左腕から口が離れる。口が離れる瞬間さっきとは違った痛みが走る。
 僕を見上げてくる朱血さんの顔は色気に満ちた満足げな笑顔だった。
 その顔を見た瞬間体が凍ったような感覚に襲われる。体が震える、左腕が痛い。怖い怖い・・・。
「痛い?」
「当たり前でしょ!本当に噛み付くなんておかしいですよ!」
「おかしくないよ。血を吸うために噛み付くのは同然でしょ」
「はぁ?意味わかんないって!遊びにしてはやり過ぎでしょこれ!」
 とにかくどうにかしないと。痛みで頭がおかしくなりそうだ。
「血ってさ、こんなに美味しいんだね」
 知らないよ。飲んだことないんだし。
 目が霞んできた。意識が遠のいてきたのだろうか。
「ねぇねぇ、もっと飲んでいい?」
「いい・・わけないでしょ」
「ちょっとだけだから、お願い!」
「やめてください・・よ!」
 突き飛ばそうとする。けどびくともしない。
「なんで・・・」
「そんな状態で無理しない方がいいよ〜」
「それに吸血姫に勝てる訳ないじゃん」
「・・・夢なら醒めてくれよ・・・」
「夢じゃないよ。紛れもない現実」
 これが現実?信じられるかと思いたい。でも痛みと状況が物語ってる、これは現実なんだと。
「なん・・・だよ、これ」
 段々と体に力が入らなくなってきた。頭もぼーっとしてきた。痛みはこんなにも鮮明なのに。
「だめぇぇぇぇ〜!もう我慢できなぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!」
「ぎゃあああああぁぁあぁぁぁぁっぁああああ」
 激痛。そして今度は飲んでいる音まで聞こえてくる。
 ふと見た朱血さんの顔はさっきより満足そうな笑顔。ゴクゴクと音を立てて僕の血を飲んでいる。
「死ぬ・・・のかな・・・僕」
 色んな思い出が頭を駆け巡る、これが走馬灯ってやつか。人生初の体験。ということは僕はやっぱり・・・。
「なんとなく、だけど・・・それだけは嫌だ!」
「あああああああおおおおおあおあおあああ!!!」
 何か目標があるわけじゃない、したい事があるとか夢があるってわけでもない。ただ単純に死にたくない!
 頭を振り、手足をバタバタさせる。痛いけど死ぬよりマシだ。
「だから抵抗したって」
 無我夢中で暴れる。無駄だと言われても抵抗する。
「きゃっ!いやっ!」
 という声を聞いて気付く。朱血さんが吸う事を止めた事を。そして僕の右手は柔らかいものを掴んでいた。
 一瞬の静寂、朱血さんが僕から離れて距離を取る。
「ついつい飲み過ぎちゃった、ごめんね」
 声が出ない、それに体も上手く動かせない。
「凄く美味しかった!」
 その言葉を最後に僕の意識は遠のいていった。

(四)
 目を開くと見知らぬ天井が見えた。どこだここは。
 そういえば僕・・・、と思ったところではっとして起き上がる。
「いっっっつぅ」
 左腕に激痛。そうだやっぱり僕は・・・。痛みのおかげで夢じゃなかったことを思い知る。
「おっ、やっと起きたね。気分はどうだい?」
 椅子に腰掛けながら叔母さんが僕に話しかけてくる。その椅子、そうかここは僕の部屋か。
「頭がクラクラする、左腕も凄く痛い・・・。ってそうじゃなくて!」
「どういうことか説明してくださいよ!」
「ごめん、ごめん。トマトジュース持たせたから大丈夫だと思ったんだけどねぇ」
 笑って返事をする叔母さん。
「何がおかしいんですか、こっちは噛まれて、血を吸われて、死にかけたんですよ!」
「まぁまぁ落ち着きなさいって」
 笑いながら差し伸べてきた手を払いのける。
「笑い事じゃないでしょ!吸血姫?おかしいでしょ!」
「そりゃおかしいさ、普通じゃないだろうねぇ」
「だったら!」
「どうしたいんだい?」
 そう言われると言葉に詰まる。真剣な眼差しの叔母さんを直視できない。
「・・・二度とごめんですよ、こんなの」
「今回は災難だったけど、まだまだ序の口。ここには色んなのが住んでるからねぇ」
 吸血姫のほかにもまだいるってこと?嘘だろ。
「退屈しないだろ?」
「・・・勘弁してくださいよ」
「嫌かい?」
「当たり前でしょ」
「私はそうは思わないけどね」
「何を根拠に・・・」
 目線をそらし、俯く。なぜそうしたのかはわからなかった。
「まぁいいや」