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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 二、大地の章

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二、大地の章・序




 「どうして、戦争しているの?」
 幼い頃、シエンは母親にそうたずねた。
 彼は父を知らない。彼が生まれる前に、北神に殺されたのだという。
 繰り返される歴史。いまだ終わらない戦争。……なぜ? そうして生まれるのは、苦しみや、悲しみばかりだというのに。
 幼い息子の疑問に、母は静かに微笑んだ。
「お前は優しい子ね、シエン」
 それはひどく悲しそうな笑みで。 
 そうして、こう続けるのだ。「お父さんそっくりだわ」と。
 戦によって生まれる憎しみや怒りよりも、悲しみを強く感じるのだから、と。
 母はよく書物を読んでいた。先のような疑問――なぜ戦が始まったか――を、母なりに解消しようとしているのだと、しばらく後に話してくれた。
「それは、あなたのお父さんが、いつも考えていたことなの」   
 父が。
 父のした。
 父のように。
 そうして、見たこともない父親の「像」を、シエンはその内に築いていく。
 ……シエンの父は、地属の神だった。
 地属は特に、血によってその力を継ぎ繋いでゆくといわれる。
 自分に地属の血を分け与えた父。その父はなぜ、戦の発端を、その理由を追っていたのか。
 書物を紐解けばおのずと知れる、地属の過去。
 太陽神と生命神の、王位を巡る争い。そのはじめの戦のとき、地属の多くは生命神を支持したと言われている。
 しかし、太陽神側にも僅かに残る、その血族。
 彼らはなぜ太陽神を支持したのか。――いや、なぜ多くの地属神は、生命神を支持したのか。
 それは、生命神に地属の血が分けられていたからという、ただ血族意識だけが理由なのだろうか?
 地属として、この場に立つ意味。かつて同じ血を分けたものとして強く結びついていただろう、同属の神々との、対立。それはおそらく、どの属性よりも問うていかねばならないこと。
 父は、何を知っていたのだろう?
 自分はその背に、どれだけ近づけただろう?
 ――セトは言った。何も知らないのだ、と。
 その言葉が胸に重くぶら下がったままだ。
 たとえ奴の意味したものとは違っても、確かに認める。自分はまだ、過去の事実を知っているとはいえない。
 時の砂に埋もれ、隠されたものを引き出さねばならない。
 地属であるがために。
 父が、そうしようと努めたように。