死なない俺の彼女
そして、すぐに蘇った。
目の前で静かに眠るように病死した彼女。
目を開けるや、立ち上がってしまった。
「さ、里美……大丈夫なのか?」
「……ええ、だいじょうぶ」
「大丈夫って、あんなに体弱っていたじゃないか!
本当に死んでいるのか……?」
「ええ、死んでいるわ。
今の私はリモート死体、やることがいっぱいよ」
「やることって?」
里美は静かに荷物をまとめはじめた。
寝ていたベッドを整え、病室の荷物を家に持ち帰る。
お世話になった人たちにお礼参りをしていく。
だんだんと、彼女が何をしているのかわかってきた。
「里美! お前、まさか終活を……!?」
「ええ、そうよ。
人間は死んでも一定時間はリモート死体になる。
身の回りを片付けたら、自動的に死体に戻るわ」
「そんな……そんなのいやだ!
また君を失う恐怖を味わせるのか!?」
「人は死ぬ。なんの前触れもなく死ぬ。
でも、ほかの人に迷惑かけるわけにはないから……」
「このままいればいい! 死体でもなんでも!
今の君はこうして生きているじゃないか!」
「死ぬために生きているの」
彼女は構わずに終活を進める。
まるで、自分自身の痕跡をこの世界から消すみたいに。
「待ってくれ! せめて、葬式を!
俺の手で葬式をさせてくれ!」
「不要よ。お金も手間もかかる。
リモート死体は最高効率で最低額で終活を済ませるわ」
「それじゃ俺が納得できないんだ!
君を二度も失ったことを乗り越えられない!」
「時間が解決するわ」
「でも……!」
彼女は止まらなかった。
思い出のアルバムもあっさり燃やし、
自分の品々を迷いなく処分していく。
その方が、残された人が死を乗り越えやすいのかもしれないけど……。
「俺は……俺は君を忘れたくないんだよ!
心に刻み付けるために葬式を!」
「二度は言わないわ。それはできない」
「人の死は物を捨てるのとは違うだろ!」
「同じよ」
ダメだ。
このままじゃ、すべての痕跡を消される。
リモート死体のせいで。
焦り迷った俺は台所に走って包丁を持ち出した。
「……ごめん!」
※ ※ ※
葬式には親族や友達が参列した。
「里美ちゃん……ありがとう」
「里美さん、いい子だったね……」
誰もが涙を流し、思い出を惜しんでいる。
俺もさっきから頭に、彼女との記憶が思い出される。
「でも、変ね。里美ちゃん、病死だったんでしょう?
なんで体に傷があったのかしらぁ」
「きっと死体の処理で必要なんでしょう。
ほら、血抜きみたいなものよ」
リモート死体を殺したら、さすがに二度目はなかった。
形として、彼女の終活を中断させてしまったが
こうして葬式できたことで後悔はない。
「それでは、火葬します」
俺とそう変わらなかった背丈の彼女は白い灰になった。
「やっぱり葬式してよかったな」
俺は嬉しくなった。
最後の思い出に彼女の家によることに。
「里美……なんで……!?」
家には、終活の続きを進める彼女がいた。
「私はType-200AE32。
終活の続きをするためにやってきました」
俺は自分の背中に印字されている
製造番号に気付いたのはその日だった。