仇討ちシェアハウス
すでに家には俺以外に3人が入居していた。
「あの、俺この家に来るように言われたんですが、
本当に仇討ちしてくれるんですか?」
「オーイエス! もちろんだよ!
この家に入居した人たちは一心同体!
お互いの仇討ち対象に仇討ちをするYO!」
「そうだにゃん♪
変に恨みや私情が入らないぶん、成功率は増すにゃ♪」
「……仇討ち成功し、たら。
この家……出ていく、ルー、ル」
「それじゃ聞いてくれ。
俺が仇討ちしたい人は……」
それから俺は同居人に仇討ち対象を話した。
中学の同級生だったこと。
自分をいじめた奴らだったこと。
そして……。
「ホワッツ? 顔は覚えてない?」
「卒業アルバムも憎しみですぐに燃やしたし
顔も思い出さないように努力してたから……」
「はにゅ~。それじゃ仇討ちのしようがないにゃん♪」
「だからこそ、このシェアハウスに来たんだよ!
それでも……ここなら何かできるかもって!」
「それは……無理、だ……。
あたしらは素人……殺し屋じゃな、い……」
「……そうだけど」
メンバーはまるで協力的じゃなかった。
ここは信用させて協力させるためにも、
自ら率先して仇討ちをするしかないだろう。
「それじゃ、みんなの仇討ち対象を教えてくれよ。
俺が代わりに仇討ちするから」
俺以外の3人の不幸話を聞かされた。
でも、本気で殺したいとかそこまでのものじゃない。
ちょっとバチが当たればいいな、くらいのものだった。
「ミーは会社の上司だYO」
「私は浮気した泥棒女だにゃん♪」
「あたし、は……元夫……よ」
「てんでバラバラじゃないか!」
とりあえず、男の会社の上司あたりに仇討ちをしようか。
俺は、同居人の男から会社の住所を聞き出した。
会社につくと、上司の情報を調べ上げ、家を割り出す。
「仇討ち、かぁ……何すればいいだろ」
恨みを持っている人だと、
徹底的に恨みを晴らしちゃったりするんだろうな。
俺みたいに縁もゆかりもない人だから、
客観的に適量の仇討ちができる。
ま、ありきたりだけどこれがリスクない仇討ちだろうな。
がしゃーーん!
俺は窓ガラスを割って部屋の中に石を投げ込んだ。
といっても、石は囮で中に浮気の証拠を入れることが目的。
こっそり家の中に女のもの化粧品などを隠し入れる。
「これでよし、と」
それから数日後、仇討ちの成果はシェアハウスで知った。
「HEY! 君、仇討ちしてくれたんだね!
あのクソ上司ったら、浮気が疑われて出世取り消されてたZE!」
「あなたが……仇討ちしてくれた、の……?
元夫の奴、顔が真っ青になっていた……わ」
「あなたが仇討ちしてくれたのにゃん?
あの泥棒女ったら、家の空気最悪だって泣いてたにゃん♪」
「え、え、ええ?」
まさか3人から仇討ち報告が返ってくるとは思ってなかった。
「待ってくれ。俺が仇討ちしたのは、1人だ。
会社の上司の家に、浮気っぽい物を入れただけで……」
「OH! それだYO!
それのおかげで、出世は取り消C!
一気に収入が減って、妻は不幸のどん底だゼ!」
それを聞いて、暗い顔の女が立ち上がった。
「その男の妻……あたしの元夫の……浮気相、手」
「えっ?」
「ふふ……いい気味、ね……。
浮気相手が不幸になって、あえなくなったから……。
あたしの元夫たら……死んだような顔になって……る」
浮気相手に愛情を求めるような人にとっては、
浮気している相手と会えなくなったら一気に滅入るだろう。
俺の行動がここまで影響を与えているとは思わなかった。
すると、ぶりっ子の女も手を挙げた。
「あーーわかったにゃん♪
あなたの元夫の再婚相手、泥棒猫のパパにゃん♪」
「どういうこと!?」
「浮気相手と会えなくなって、家庭内空気最悪だにゃん♪
荒れに荒れるもんだから、一人娘の泥棒女は帰る家がないにゃん♪」
俺が、会社の上司に浮気疑惑をかけたことで
その妻は浮気ができなくなった。
浮気ができなくなったことで、
その相手の男……元夫はストレスがたまり、荒れまくった。
荒れまくった結果、その娘……泥棒女は不幸になる。
こんなに不幸が連鎖するなんて思ってもみなかった。
でも、これを偶然として片付けるのは無理がある。
「そうか……! わかった!
俺がこのシェアハウスに呼ばれたのは、このためだったんだ!
お互いに仇討ち先がリンクしているからだったんだ!」
まるでパズルのピースをはめるみたいに、
俺は仇討ちシェアハウスに招集された。
なぜなら、誰か1人でも仇討ちに成功させれば
ドミノ倒しのように仇討ちに成功するはず……
「あれ? 俺は?」
俺だけ仇討ちされていなかった。
「OK、もうそんなことどうでもいいYO!
かつてのいじめ相手なんて忘れちまえYO!」
「そうだにゃん♪
いつまでも恨みを引きずるなんてみっともないにゃん♪」
「男らしく……な、い」
「お前ら仇討ち成功したからって!!
さっきまで、ずっと恨み引きずってたじゃねえか!!」
「さっきはさっきだYO。
それじゃ、シェアハウスルールがあるから出なくちゃNE」
「次の入居者に仇討ちをお願いするにゃん♪
ばいばいにゃーん♪」
「もしくは……恨みなんてさっさと忘れ、な」
薄情な入居者たちはさっさと家を出て行った。
「あーーあ、結局、俺だけ仇討ち失敗かよぉ。
なんだか不公平だなぁ」
キキーーーーッ!
外からブレーキ音が響いた。
ニュース速報
ただいま、国道123号線で人身事故が発生。
運転手の女は家庭内の雰囲気に耐えきれず暴走していたとのこと。
現在、責任能力があるのかを調査中
重傷:山田 孝則
重傷:佐藤 美鈴
重傷:渡辺 美佐
「あっ」
表示された名前はどれも、かつてのいじめっ子だった。
3人の顔写真は、ちょうどさっき家を出て行った3人で……。
「ざまあ」