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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ネクロリレー400m決勝戦

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「仕上げて来たみたいだな」

ライバルは男の持ってきた死体を見て得意げに言った。

「ああ、ネクロマンサーリレーの決勝戦。
 この勝負に勝って、賞金を手に入れるんだ」

ネクロマンサーリレーの優勝者には賞金、
そして、優勝に貢献した死体には願いが1つだけかなえられる。

いわば、死体業界のオリンピックだった。

男とライバルは試合に備えて、ウォーミングアップを始めた。
陸上のトラックに置かれた死体をうまく操って走らせる。

ライバルは男のアンカーを見て目を疑った。

「なっ……! あれは、ボサイン・ウルト!?」

生前、亜空間の走りとまで言わしめた伝説の走者。
走ることこそが、生きる喜びだと語ったほどの陸上狂。

「これはまずい……あんなのに走られたら、勝ち目はないぞ。
 少し早いが、動作確認も含めてやっておくか」

ライバルは客席の仲間に指示を出すと、
ボサイン選手に向けて妨害魔法を放った。

すると、さっきまで軽快にリレーの練習をしていたのが
操り人形の糸が切れたように動かなくなってしまった。

「あれ!? なんでだ!? おい、ウルト!」

男は何度も死体を立ち上がらせようと、ネクロ魔法を放つ。
けれど、ゴールの手前で倒れたまま動かなくない。

ライバルはニヤリとほくそ笑んだ

この妨害魔法はとても強力で解除するには
同じ魔法をもう一度受けない限り解除できない。
4人で走るコースを、3人で回して勝てるわけがない。

「ふふ……一番怖かったのは魔法が通じないことだったが
 それもどうやら心配なさそうだな」

今さらメンバーを変えるわけにもいかず、
男は3人の死体をコースに入りしてスタートを待った。


『それでは、生存チェックをはじめます』


大会主催者は、ライバルと男の用意した人間たちから
生存反応がないかどうか細かくチェックする。

もし、生きている人間が選手として登録されていた場合
その時点で大会記録はもちろん、賞金もナシになる。

『生存確認、ありません。全部死体です』


「では、位置に死んで……」

ライバルと男はネクロ魔法を構える。

「よーーい……スタート!!」

合図とともに、男とライバルはいっせいに魔法を放つ。
タイミングはほぼ同時。
死体がコースからむくりと立ち上がり、一斉に走り出す。

横一線のスタート。

前の走者が、次の走者を魔法範囲内にとらえればリレーできる。
どのタイミングで次の走者にネクロリレーするかがポイント。

「いまだ!!」

男はライバルよりも先に、第一走者を中継しネクロ魔法を第二走者へ。

「ふん、馬鹿め! この距離じゃリレーはできまい!
 ネクロリレー失敗でタイムロスを……」

「それはどうかな!」

ライバルの目算ははずれ、男のネクロリレーは完璧につながれた。
逆に大きなタイムロスを負ったのはライバルだった。

「ま、まずい……!」

「やった! これなら3人でも勝てる!」

焦りでネクロ魔法を乱したライバル。
そのせいで、死体はがくがくとぎこちない動きになり
男の走らせる死体とはぐんぐん差が開いていく。

「くそっ……! こうなったら!」

ライバルは客席の仲間に合図を出した。
仲間は作戦通り、会場すべてを包むほどの妨害魔法を放った。

その瞬間、リードしていた男の死体は、
もとの物言わぬただの死体へと戻ってしまった。

「お、お前なにを!!」

男は怒ってライバルにつかみかかったが、
ライバルは構わず自分の死体走者を走らせ距離を詰める。

「ふふ、僕になんの証拠があるんだい?
 試合前の検査にもちゃんとパスしているぞ?」

「こんなの……お前しかないだろ!」

「言いがかりはやめてくれよ。
 君のできそこないの死体が、
 ネクロ魔法をうまく受け止めきれなかっただけだろう?」

「くっ……!」

ライバルに証拠はない。
客席にいた協力者はすでに姿をくらませていた。

「ハハハハ! 悪いな!
 勝負ってのは非情だな! 勝利こそ正義!」

ライバルの死体が、男の第三走者を抜き去る。
男はじっと目をつむって手を合わせている。

「なんだ? この期に及んで神頼みかぁ?
 はははっ、せいぜい最後までみっともなくあがいてくれよ。
 その方が勝った時の嬉しさが増す」

「…………」

「おい、なんとか言えよ!」

ライバルは男が手を合わせている方向を見て、言葉を失った。

「し、しまった……!」

視線の先には、リタイアしたはずの第四走者が
生まれたての小鹿のようにふらふらしながらゴールへと向かっていた。

「お前! 黙っていたのは、
 ボサイン・ウルトを操るために集中していたのかっ!」

ライバルは慌てて自分の死体を急がせる。
でも、それがかえって死体の腐敗した足をふらつかせる。

そして、そのまま……。


『ゴーーーーーーーール!!
 先にゴールしたのは、ボサイン・ウルト選手!』


ライバルはがっくりと膝から崩れ落ちた。

ゴールしたボサイン選手はお立ち台へと昇らされる。
男はネクロ魔法で一時的に生前の命を吹き込んだ。

「ボサイン選手、おめでとうございます!」

「嬉しいデス。久しぶりに走れて最高デシタ」

ボサイン選手はかつての生きがいを存分に味わって大満足。
男も賞金の使い道を考えて顔が緩んだ。

「さて、ボサイン選手。
 今回、最も優勝に貢献した死体ということで
 願いを1つだけかなえることができますが……何にしますか?」

「ハイ、もう決めていマス」

ボサイン選手はすぐに答えた。


「また生き返って走りたいデス」

ボサイン選手の願いがかなえられて、
青白い肌に血の気が戻り、息を吹き返した。

そこに男がやってきた。

「それじゃ、賞金の方も……ねぇ?」

手もみしながらやってきた男に、大会主催者は伝えた。


「何言ってるんです? 
 大会ルールで、生きた人間を選手に登録していた場合
 賞金はナシになるって言ったじゃないですか」