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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 一、太陽の章

INDEX|35ページ/42ページ|

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すぐに、セトは地を蹴りその影響を脱しようとした。が、シエンがそれを許さない。同じように駆け、シエンは握った聖杖で地を突く。次には地に満ちていた泥が黒々とセトの視界を覆った。セトはそれを自らの力で跳ね除ける。その影に、地を蹴り跳躍したシエンの姿。杖が重なり打ち合う音を響かせると、互いに弾き合うように距離をとる。
 乾いた地の上に対峙し、睨み合う。ふいにセトがその口端を持ち上げ、自らの杖を幅広の刃に変えた。
 引き付け時間を稼ぐこと、それがシエンに求められていること。大規模な力を使えば敵の警戒を煽るだろう、しかしこうなった以上避けられない。この男が相手では……。
 時間的にあまり余裕がなくなった。ただし、ひとつだけはっきりと分かったことがある。
(間違いない、睡蓮の精霊はここにいる……!)

       *

 キレスは地に屈み込んで、じっと地下の様子を探っていた。
 ヒキイの言ったとおり、地下深くに大きな空間がある。迷路のように入り組んだそこに、いくつか神の存在を感じる。
 北東から始めて、徐々に中心へと意識を移していく。注意深く探らなければ、まったく捉えきれない。自然の岩盤は、それ自体が強力な結界の役目を果たしている。地属の神が、全属性一の守りの力を誇るというのは、こうした理由からだった。
 ヒキイはキレスの傍で辺りを警戒していた。存在を探ることだけに集中し、キレスが無防備であるためだ。ここはすでに守備範囲内、気配を抑えても、いつまでも存在を隠すことはできないだろう。いつ敵が襲ってくるかわからない。
「……っう」
 ふいにキレスが声にならない呻きをもらした。
「どうしました?」
「頭……いてぇ……」
 中心部近くを探ろうとすると、急に、頭を締め付けられるような痛みが襲う。一度意識を戻し、もう一度試してみるが、やはり中心に近づくにつれ、頭痛がひどくなる。
「くそ、もう少し……」
「意識を強く集中させたために、疲労が蓄積しているのかもしれませんね……。和らげるくらいなら――」
 額に伸ばされたヒキイの手を、しかしキレスは払い退け、言った。
「――別に、いい」
 ひとつ呼吸して、額を押さえ痛みを紛らわす。何もかもがひどく不快だった。苛立つ気持ちをどうにか抑え込み、キレスは捜索を続ける。地上の結界と、自然の岩盤とが、彼の力を阻む。その上、どうもこの地下にある何かが、彼の集中を妨げているようだった。神々の存在がぼんやりとはつかめるが、ラアであるかどうか、判別がつかない。
 ラアの“存在”――それ自体が放つ輝き。目に映らずとも見えるもの。それは自身をさらけ出し、他にまでそれを強要するような……キレスの胸をひどく抑圧するもの。捉えさえすれば、すぐに気付ける自信があった。この地下深くで、自身を不快にする“何か”――それが、ラアの存在を示すものなのだろうか?
(でも……なんか、違う)
 この頭を締め付ける感覚、力は、今までのどんなものとも、似ていなかった。北の主神「生命神ハピ」の持つ何かかもしれない――しかし、ただ存在するだけでこれだけの力を放つとは思えない。
 そこで何が行われているのか。キレスはさらに意識を束ね、それを探ろうとしていた。
 西方で力の衝突が始まる。ヒキイは手にした補佐の杖を、自身の聖杖に変えた。すぐにでも応援が駆けつける可能性がある。そうして彼自身も、地上の敵の気配を逃さぬように、辺りに意識を広げた。
 僅かののち、現れたひとつの存在。気配を抑えてはいたが、同属であるためすぐに気付けた。ヒキイが自らの杖を振るう。鋭い閃光が針のように煌くと、地に何かが落とされた。
 黄金の矢――火属の第二級「技神セクメト」。カナスと同じ称号を重ねる女神。
(こちらは弓矢ですか……)
 北の技神も、ヒキイが同属の上位であると気付いたらしい。ヒキイの神号「輝神ヘル」は、視覚に関する力を誇る。それを知るため、敵は姿を見せようとしない。同じ場に立てば不利だと、知っているのだ。
 同じ属性間では、力の差は歴然と現れる。それを越える方法は、その神号のみ扱う特徴的な力を前面に出して戦うほかない。セクメトの特徴は、その素早さと黄金の武器。槍を扱うカナスと違い、弓ならば遠隔より攻撃可能だろう。
 ヒキイは放たれる矢に注意を向けながら、一方で周囲への警戒を怠らなかった。援護がさらに加わることが予想されるためだ。
 いつの間にか、辺りはうっすらと霧のようなものに包まれていた。