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オモイ

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声を抑えきれず、泣きじゃくる彼女を後目に、大きくため息をついた。きっと彼女も何をどうしたらいいか、というよりも前に、なぜこうなってしまっているのかが分からないのだと思う。僕もそうだ。―なぜ今、こんなにも苦しいのか。

 美佳と付き合い始めたのは大学に入学してからしばらくたった冬休みであったから、別に入学で目新しい人に声を掛けていくような恋愛に飢えているわけでもなかったと自分では思っている。美佳を選んだ―というと言葉が悪く聞こえてしまうかもしれないが、選んだも、選ばれたも、実際愛し合ってしまえば関係ないのではというのが僕の考えだし、何しろ僕から告白したわけだから選んだ、と言ってしまっても過言ではないのではないかと思う―理由は、単に一緒にいて心地良かったからだ。
 居酒屋で呑む女子大学生のメジャーな話題は恋愛だが、ほろ酔いで話す彼女たちの恋愛は結局、「彼氏にしたい人は一緒に居て苦痛にならない人」ではないか。僕の中の基準もその彼女たちと全く同じであったまでだ。美佳は他人に優しい。気配りも出来るし、笑顔が可愛いと彼氏目からしても思う。人を引き付けるほどのオーラはないにしても、付き合う周囲の人の雰囲気を柔らかにするような女性だ。
 彼女とは普通の恋人が通る道を一緒に歩いてきたように思う。一緒に誕生日を祝い、記念日を思い出してはこんなにも長く一緒に居たのだ、と微笑みながら祝杯をあげる。遊園地や水族館、映画館に動物園、美術館。美佳との時間を切り取れば、笑顔の僕らが色々な場所に残されているだろう。僕はきっと幸せであったと思う。

 幼い頃に触れた恋愛小説やドラマには、いつまで経っても自分に素直になれない主人公が涙の告白をして愛しい人を手に入れたり、愛し合っていた二人が涙の別れを迎えることになったりと浪漫に溢れていたのを覚えている。僕たちの恋愛はどちらかというとそういった浪漫には遠いものだった。喧嘩やいざこざは勿論あったけれど、それが僕らの関係や想いを揺らすことはなかったし、逆に僕らの何かを強めることも無かった。

 僕の中の恋愛とは欠片の交換だ。砕いて、砕いて小さくしておいた己の小さな心を一つずつ相手に渡していく。その代わりに相手も心の欠片を渡す。―これが僕です。こんなことを感じて、こんな事をするのが好きなんだ。趣味は…―欠片には各々の想いが詰まっている。小さい自己紹介カードなんかと似ているだろう。僕のことを知ってもらうために、相手を知る為に交換しているのだ。おそらく人間はそれを「愛」とか「恋」とか呼ぶのだろう。僕も沢山の自分を美佳に手渡してきた、想いの詰まった沢山の自分を。僕の中にもまた美佳の欠片が小さな山になっているだろう。

 でも心が、もうこれ以上は、と呟くのが聞こえてきてしまった。心が欠片を拒む。人の想い。想いは何時しか重いになり、僕の心を抑えつけてしまったのだ。ぶつかり合いながら美佳の欠片が僕の中で揺れる。―カチ、カチ…カチカチ―
ごめん、美佳。君の欠片はもう受け取れない。もう、終わりなんだ。

―泣きやみつつある美佳は、立ち上がった僕を見上げる。
長い間ありがとう、美佳。でもさよならだ。

すすり泣く声が大きくなったような気がしたが、ドアを閉めて去った。
―カチ、カチカチ。カチ
さよならだ。
作品名:オモイ 作家名:閏ふ