大人シッターなんて役に立つの?
「わかってる!!!!!」
秘書に言われるまでもなくわかってる。
このままじゃ会社が危ないってことも。
「いったいわが社の製品はなぜウケないんだ……。
子供のニーズは綿密にマーケティングしてるし、
最高級の素材も使ってるし、
親にも買いやすいように配慮して作ってるのに!!」
わが社のおもちゃの売り上げは右肩下がり。
広告にも金をかけているのにちっとも伸びやしない。
「しょ、少子化だからかな……。
わが社の製品自体は悪くない……そうだ悪くな」
「社長、他社は売り上げを少子化以前よりも伸ばしてます」
「うっせぇわ!!」
とはいえ、このままではじり貧で倒産する。
「なんとかしなくては……」
「社長。でしたら、大人シッターを受けてみては?」
「それで、子供の気持ちがわかるんだな?
製品の売り上げが伸びるんだな?」
「大人シッターの満足度は200%ですよ」
秘書の提案もあり、その大人シッターを申し込んだ。
やってきたのは、まだ年齢が一ケタの少年だった。
「あんたが大人シッターを申し込んだ人だな」
「あんたって……俺の方が年上……」
「大人をあやすシッターは僕の仕事だよ。
あんたはおとなしくシッターされればいい」
「……えぇーー」
申し込んだことを深く後悔した。
シッターの少年は俺にさまざまな遊びを提案する。
「それじゃ鬼ごっこするぞ」
「かくれんぼだ、あんたが鬼な」
「そうだ、学校で靴飛ばしゲームするぞ」
「やってられるかぁぁぁ!!」
数時間ほどでばかばかしくなり、逃げようと秘書に連絡をした。
「なにが大人シッターだ、ばかばかしすぎる!
車を出してくれ! こんなの何にも効果ない!」
『社長、大人シッターの途中辞退はできませんよ』
「知るかそんなこと! いいから車を出せ!」
「ほらな、大人はすぐにそうする」
はっとして振り返ると、シッターの少年が立っていた。
「大人は自分の物差しだけでで
価値がないと判断して、すぐに切り捨てる。
効果が見えないと意味がないとすぐに思うな」
「うっ……」
「結果の見えない努力も、効果の出ない日常は無駄だって。
求めればすぐに与えられるわけないだろ。
結果がすべてについて回るわけじゃないだろ」
「うぅっ……」
なにこの子こわい。
でも、たしかに少年の言っていることも一理ある。
検索してすぐに答えが返ってくる。
市場のデータに従えばそれが正しい。
そんなふうに、狭い範囲でしか考えていなかった気がする。
「……大人シッター、続けるよ」
「続けさせてください、だ。
大人は自分より年下の人間には、すぐ偉そうにする」
「す、すみません……続けさせてください」
それからは、真面目に……といえばいいのか
シッターの少年に全力であやしてもらった。
「はぁっ……はぁっ……。
ぜ、全力で鬼ごっこやると……。
こんなにも楽しいん……はぁ……ですね」
「そうだろ……ふふ。
お互いの身体能力差をどうカバーするかが重要なんだ」
鬼ごっこなんて、ただ追い掛け回すだけの遊び。
そんなふうに達観していた。
やってみると、学ぶところや勉強になる部分が多い。
「これが……大人シッター……!」
「データだけで子供を知った気になってんじゃねぇぞ」
「はい! よろしくお願いします!」
大人シッター期間が終了すると、
世界ががらりと変わって見えた。
「社長、大人シッターはどうでした?」
「ああ、すごくよかった!
子供が何を求めているのかが見えた!
今なら最高のおもちゃが作れそうだ!」
「社長……!」
大人シッターから学んだ遊び心、挑戦心、悪ふざけ。
それら全部をつぎ込んで新しい子供向けおもちゃを作った。
製品を見てみると、これまでにない自信を感じた。
「これなら大成功間違いなしだ!!」
製品発表後、なんの宣伝もなしに製品は爆発的なヒット。
傾いていた会社は一気に黒字転換。
一生遊んでも、二生遊んでもまだ生きていけるだけの金が入る。
「社長やりましたね!! 大成功です!」
「ああ、そうだな……不満なのが1つだけあるが」
「不満? 製品も大ヒットして、
会社も大儲け、今や社会現象になっているんですよ?
いったいどこに不満があるんですか?」
「このおもちゃ……大人の方が買ってるんだよなぁ……」
作品名:大人シッターなんて役に立つの? 作家名:かなりえずき