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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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鳥頭インフルエンザ流行中!

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「よし、この日が来るのが楽しみだ。
 これできっと世界はより健全なほうへ……。
 あ、そうだ。メモしておかなくちゃ」

その日に、自分までまきこまれてはたまらない。
慌ててメモとペンを取り出した。

でも、そこでペン先が進まなくなった。

「……あれ? なにメモするんだっけ?」

翌日、病院の定期検診にいったときだった。

「鳥インフルエンザですね」

「とり……え? 人間にも感染するんです?」

「はい。どうやらあなたは感染しています。
 お薬を出しておきますね」

「あ、あの、その前に、
 鳥インフルエンザは感染したらどうなるんです?」

医者は薬を取ろうと、3歩歩いた。
そして、振り返った。

「……今、私はなにをしようとしていたんだっけ?」

「薬を取るんでしょ! 鳥インフルエンザの!」

「そうだったんですか。
 いやぁ、助かりました。
 なにぶん、私も感染しているもので……」

「医者としてそれはどうなんだ……」

診察を終えて3歩歩くと、
俺は会計も忘れてそのまま帰るところだった。

鳥インフルエンザ……思った以上にやっかいな病気だ。







「あれ? なにしてたんだっけ」

手元には、ふたが開いたカップ麺とポット。
状況証拠から見て、カップ麺でも食べようとしていたんだろう。

ああ、そうだ。
思い出した。

ポットからお湯を出そうと3歩歩いてしまったんだ。

「やれやれ……これじゃ仕事もろくにできないよ」

家の外に出ることもできないので、
家に引きこもりがちになっているとニュースが流れた。

『ただいま、鳥インフルエンザが日本で大流行!
 感染した人は外出をひかえて……控えて……なんだっけ?』

アナウンサーは周りをリポートしようと
3歩歩いてしまったのが見て分かった。

「こんなに流行してるのかよ……。
 これじゃ、俺一人が治したところですぐに感染しちゃうじゃないか」

それこそ、無菌室みたいな場所で
ほとぼりが冷めるまで隔離されるくらいしかいい手が思いつかない。

いや、思いついたのかもしれないけど
3歩歩くとすべて忘れてしまうので覚えていない。

「こりゃ、町の昨日は完全に止まっちまうぞ……」

絶望的なシナリオが見えたつもりだったが、
それから数日たっても、町はいたって普通のままだった。

「不思議だ……俺なんかは発症してから
 仕事なんてまるで進められないってのに。
 なんで町はちゃんと運営していけてるんだ?」

外に出るのは怖かったが好奇心に負けて外に出た。
すると、あっちにもこっちにも
みんな歩きながらスマホを何か操作していた。

「あの、スマホで何やってるんです?」

「え? 記憶.comに決まているじゃない。
 いまどき、このアプリを使わないでよく日常生活できたわね」

「きおく……どっとこむ?」

手元のメモ帳に歩く前に書いてから、家に帰った。


記憶.com。

なんてことない、メモ帳サイトだった。
登録には別のサイトアカウントさえあればいいので利用も楽。

「あ、すごいすごい。
 こんな手軽にメモができるのか」

好きなだけメモしまくれるうえに快適。
なるほど、これがあればあ3歩歩いて忘れたとしても
すぐにまた思い出せるし、ちょいちょいメモし続けられる。

みんなが歩きスマホする理由に納得した。

「よーーし! これで俺も普通の日常に戻れるぜ!」


しばらく、家で引きこもり生活をしていただけに
『記憶.com』の登場で俺は堂々と外に出られるのが嬉しかった。

普段の日常を取り戻し始めたころ、
ニュースはある話題ばかり報道するようになっていた。


『犯行予告が出された日は明日!
 いったい犯人はなにを考えているのでしょう!』

「どこにでもいるな、こーいうバカ」

つい、見てられなくなりテレビに合いの手を入れた。

爆破予告だとか革命だとか、自分に酔いすぎだ。
そんなことしなくても世界を変える方法なんていくらでもあるのに。

『しかし、警察も鳥インフルエンザであるために
 現在、操作は大変難航しております』

「なんじゃそりゃ!!」

思わず転びそうになった。

『したがって現在警察ではありとあらゆる可能性に備え、
 国のありとあらゆる重要拠点には人員を増員しております』

映像には銀行や政治家を守る警察がテレビに映った。
なんだか、もしかしてとんでもないことになってないか?

「これはメモしておかないとな」

さっそく記憶.comにとどめておく。
もしかしたら、明日俺は大ニュースを見るのかもしれない。



翌日、朝からテレビは大騒ぎになっていた。

『ついに、犯行予告当日となりました。
 犯人はいったい何をするつもりなのでしょうか……!』

あらためて、犯人からの脅迫文が読まれる。


"必ず、全国民を混乱と恐怖の渦に叩き落としてやる"


『警察はなおも厳重な警戒を行っております。
 一部の要人周辺では銃の携帯も許可されるほどです』

ごくり。
自分でも生唾を呑む音が聞こえた。

「これだけ警戒している状況で……何する気なんだ」



『あっ! ついに犯行時刻となりました!!』



なにも起きなかった。

その瞬間、わずかでもこの状況に恐怖した自分が恥ずかしかった。

「やれやれ、忘れていたよ。
 こういう爆破予告とかっていつもウソなんだよな。
 あーーホントばかばかしい、カップ麺でも食うか」

立ち上がり、記憶.comにカップ麺を作ることをメモしなくては。
歩きながら台所へ向かう。

1歩。

2歩。


そして、犯人が何をしたのか悟った。


『パスワードを入力して下さい』


犯人が爆破したのは国の大事な場所ではなく、
雑に管理してある国のパスワード装置だった。

「あ……そうだ。そうだった。
 俺はこの腐った国へお灸をすえるために
 サーバーに時限爆弾をしかけて……」

自分のパスワードだけは忘れないように
メモを取ろうとしたところで……。


3歩。


俺は自分が何をしたのかも、すべて忘れ飛んだ。

やがて、国はパスワードを完全に忘れた人達で大混乱になる。