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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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あの素晴らしい感動をもう一度

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「おじいちゃん! 死んじゃやだー!」

「孫よ……今までありがとう……。
 安らかな死を迎えられて……満足……じゃ……」

「おじいちゃーーん!!」

ゆっくりと眠るように目をつむった。

「おじいちゃん! 死んじゃやだー!」

目を開けると、また孫の顔がある。

「あれ……?」

ふたたび眠るように眼をつむった。

「おじいちゃん! 死んじゃやだー!」

「あれれ?」

命の終わりを感じるたびに、時間が戻っている。
それから何度も老衰で死んでも同じだけ戻ってしまう。

「ワシは死ねないのか!?」

一生、今際の数分間を味わい続けるなんてお断りだ!

自らの人工延命装置を外して、呼吸不全になった。

「ひゅー……ひゅーー……これで……今度こそ……死ね……る」

 ・
 ・
 ・

目を開けると、縁側に座ってお茶を飲んでいた。
さっきまでの病院の風景じゃない。

「な、なんじゃここは……いったい何が!?」

「あらあら、おじいさん。どうしたんですか?」

「ばあさん……2年前に死んだはずじゃ……」

「死んだ? 何を物騒なことを言っているんですか。
 本当に変なおじいさんですね」

タイムリープというのは聞いたことがある。
でも、ワシの場合それが死んだときに起きるのか。

でも、どうして2年以上前に……。

ふと死ぬ前の自分を思い出すと、
呼吸ができなくなって死んだことを思い出した。

まさかとは思うが、苦しんで死んだぶんだけ
時間がたくさん巻き戻るのだろうか。

「おじいさん、どうしたんです?
 さっきからニヤニヤして」

「ふふ、お前との青春をもう一度味わう方法を思いついたんじゃ。
 あの甘酸っぱくて愛おしい時間をもう一度な」

医者から処方されている薬をあえてがぶ飲みする。
一気に体中が総毛立ち、のたうちまわって死んだ。


目を覚ますと、学生服に身を包んでいた。

「おい、授業中に寝るとはなにごとだーー。
 廊下に立っていなさい」

教室中がどっと笑いに包まれた。
廊下に立たされつつも、たしかな手ごたえを感じていた。

そう、今ここは青春時代。

今思えば甘酸っぱい思い出も、
今じゃ取り戻せない感動がぎゅっと詰まっている時代。

「やった! ワシはまた感動を味わえるんじゃ!
 ……じゃなくて、感動を味わえるんだ!」

慌てて語尾を修正して、青春を謳歌し始めた。

友達と買い食いしたり、勉強会を開いたり、
女の子と恋愛したり、部活に精を出したり……。

「あれ? こんなものだったか?」

でも、いざ体験してみるとなんてことはなかった。
昔に味わった感動の追体験ができると期待していたのに。

「……なんでじゃ……だろうな。
 実は青春ってこんなものだったっけ?」

確かに今の記憶の中には、
きらびやかな感動が残っているのに
同じことをしている今はさして感動しない。

「きっとこんな時代だからダメなんじゃ。
 もっと感動を感じた時代に戻りさえすれば!」

決断すると、家に帰って息を止めて死んだ。
すると、周りの風景はランドセルと小さな背中ばかりになった。

「おお! 小学校かあ!
 これなら、あの感動をもう一度味わえる!」

小学生の頃には感動が詰まっている。

友達と作った秘密基地が楽しかった。
毎日公園で遊びにいった。
隣町まで冒険したりも……。

ああ、またあの感動が味わえるなんて。

「なあ、今日公園行かないか!」

さっそく友達に声をかけて、公園に行った。
友達は楽しそうに遊びの提案をしてくる。

「靴飛ばししよーぜ!」
「鬼ごっこがいいよ!」
「かくれんぼがいいな!」

「なにその惹かれないラインナップ……」

昔は毎日暗くなるまで遊んでいたのに、
今は友達との遊びが退屈でどうしようもない。

「おっかしいなぁ……。
 なんであのときの感動を味わえないんだ」

しょうがない。
もうちょっと戻ろうか。

3歳くらいにまで戻ればきっと、
あの驚きと感動があふれる毎日に戻れるはず。

でも、同じ死に方をしてしまっては
同じ時代へと戻ってしまうので、
日曜大工に使うハンマーを持った。

「死ぬか死なないかぎりぎりであるほど、
 時間は戻されるわけだからな……よしっ」

俺はハンマーで自分の後頭部を強打した。
目の前に星が散って、ぐらりと倒れるさなか。

自分が急所を外して、死ねないことを確かに感じた。

「自殺失敗……か……よ」

目を閉じると、ストレッチャーで運ばれるのが分かった。


※ ※ ※

「お母さん、その後どうですか?」

「ええ、毎日楽しそうに遊んでいます。
 前はどこか悟ったように、友達と公園に行っても
 ひとりだけ飽きた顔をしていたんですけどね」

「息子さんは、またハンマーで自分を殴ったりは?」

「しませんよ!? ホントあの時はどうかしていたんですよ」

「それはよかったです」

自分の後頭部をハンマーでぶっ叩き、
一時はどうなるかと思ったが治療は成功した。

今じゃ元気にチョウチョを毎日追いかけている。

「なにが楽しいんだか……」

あれでもきっと本人は感動しているんだろう。
なんて楽しいんだ、とか思いながら。

まるでわからない。
あれの何が楽しいんだか。

「先生、それじゃ今日は……」

「あ、そうですね。
 息子さんの後遺症、記憶喪失に関して
 なにか問題が起きたときは連絡してください」


これまでの記憶をすべて失った息子は、
毎日新鮮な驚きと感動を味わい倒していた。