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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ディナー・リセットマラソン

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『ディナーシミュレーションへようこそ。
 相手のデータと店のデータを入力してください』

俺は明日に予約している店のデータと、
気になっている彼女のデータを入力した。

『シミュレーションモード開始』

周りの風景は予約している店に早変わり。
そして、テーブルをはさんだ向こう側には彼女がいる。

一気に緊張感が増してきた。

『なお、シミュレーションをリセットする場合は
 鼻をほじってください』

「なんでだよ!?」

『ディナーで絶対取らない行動なので、
 リセットの誤作動を防ぐためです』

「なるほど……」

確かに、手を鳴らすとかだと
何かの拍子で間違ってリセットする可能性もある。

それはそうと、さっそくディナーを練習しなくちゃ。

「素敵なお店ね」

シミュレーションの彼女が語り掛けた。

「ああ、そうだろう?
 実はここの歴史は30年前のフランスの
 とあるワイン貯蔵庫からスタートしていてね……」

俺は調べてきた店の情報を惜しげもなく披露した。

「……というわけなんだ。
 だから、ここの店に君を連れて来たのさ」

「はぁ……」

彼女の眉間にはしわが寄っていた。

「え? え? た、楽しくなかった?」

「ぶっちゃけ店の情報とかどうでもいいし。
 それを披露して私に"すごいね"とか言ってほしかったの?
 ディナー冷めてるんだけど。
 あなたは私をどうしたいの? 自慢話の聞き役が欲しいの?」

「あぅ……あぅ……」

気の強い彼女の性格を完璧に再現している。
俺はたまらず鼻に指を突っ込んだ。



「素敵なお店ね」

「うん、君にそう言ってもらえてよかったよ」

リセットして、仕切り直す。
もう自分の知識を独りよがりに話すものか。

「お待たせしました。前菜のスープでございます」

「わぁ、おいしそう」
「そうだね、それじゃ食べようか」

ああ、無理にカッコつけることはなかったんだ。
ただこのディナーを楽しめばきっと……。

「あの……どうかした?」

彼女の眉間にはしわが入っていた。

「さっきから気になってるんだけど、
 スープすするの、どうにかならない?」

「へ?」

「ズズズッて! 気になるのよっ!
 せっかくこんなきれいなお店なのに
 食べ方が下品だから台無しなのよ! ホントわかってない!」

「ふぇぇぇ!?」

食事の音なんて気にしたことなかった。

それ以降は変に食事に気を使いすぎて、
会話もまるで弾まずに大失敗のディナーで進んだ。

「あーーもう! やり直しだ!」

俺は鼻に指を突っ込んだ。


「素敵なお店ね」
「素敵なお店ね」
「素敵なお店ね」
「素敵なお店ね」
「素敵なお店ね」
「素敵なお店ね」
「素敵なお店ね」
 ・
 ・
 ・

何度も何度もシミュレーションを重ね続けた。

「今日はありがとう。とっても楽しかったわ」

彼女のその言葉を引き出すまで何度かかったことか。
でも、これで明日のディナーは完璧だ。

『シミュレーション終了。
 次のシミュレーション希望者がいるので
 10秒以内にこのルームから出てください』

「ええええ!?」

俺は機械に追い出されるようにルームを出た。


翌日、俺は彼女と予約した店にやってきた。

「素敵なお店ね」

これが1発目なら緊張で大失敗するところだが今日は違う。

「君のために、ちょっと背伸びしちゃったんだ。
 こういう店、君と一緒じゃないと入れないから」

「うふふっ、嬉しいわ」

何このいいムード!!

彼女もキレイめの服装がもうたまらない!
なんかいいにおいしてるし!

けれど、俺は少しも動揺していない。
何度もシミュレーションしてきているからこそ、この落ち着きよう。

「それじゃ今日はディナーを楽しもうか」

俺は余裕のある笑みを浮かべた。
シミュレーション通りなら、そろそろ前菜が来るはずだ。


「お待たせしました。前菜のスープでござ……あっ!」


ウェイターは派手にすっころんで、
盆に乗っていたスープを俺のズボンにぶちまけた。

「熱っ! 熱いっ熱いっ!」

「ちょっと! 大丈夫!?」

彼女はハンカチを持って立ち上がった。
その瞬間、自分の服の裾が椅子に巻き込まれた。

ビリィッ!

紙を割くような音とともに、
彼女のロングスカートに真一文字のスリットが入る。

「きゃあ!」

バランスを崩した彼女はそのまま俺の股間めがけて頭突きを放つ。

「うぎょんっ!!」

普段発したことのない声が俺の口から出た。

「ああ、ごめんなさい! あっ……」

「えっ?」

彼女が口ごもったので、ズボンに目を落とす。
ここでまさかのチャック全開だったことに気が付いた。

「ひぃぃぃぃ!!」

なんでこんなことに!!
あんなにシミュレーションしたのに!!


チャック全開でズボンはびっしゃびしゃ。
彼女はチャイナドレス顔負けのスリットに、
男の股間に顔をうずめるというトンデモ展開。

周りの客は刺さるような冷たい目線を送っていた。

「リセット! そうリセットだ!」

気が動転した俺は慌てて鼻に指をつっこんだ。
ここが現実だと気が付いたときにはもう手遅れ。


――やっちまった。


さようなら、俺の恋愛。
さようなら、俺のディナー。
もうこれで何もかも台無しだ。




ふと見ると、彼女も鼻に指を突っ込んでいた。

俺は彼女と結婚することを心に決めた。