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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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落語でひと息いれませんか?

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厩火事



美容室を開いている1組の夫婦がいた。

「あなた! ちょっとは店を手伝ってよ!」

「あーー……ちょっと今日はなぁ。
 悪ぃ、パチンコの新台入荷なんだ」

「あなたね! いつも遊んでばかりじゃない!
 昼間からお酒を飲んで、どうも思わないの!?」

「何言ってんだ! そもそもこの店は俺の店だ!
 それをどうしようが俺の勝手だろうがぁ!」

夫はばしんとたたきつけるように戸を閉めて家を出た。

最近になってますます豪遊に歯止めがきかない。
夜遅くまで飲み明かしてはふらふらになって帰る。

妻は夫のことは嫌いじゃないが、
この悪癖ばかりはどうにも鼻についてしょうがなかった。

「……というわけなのよ。
 いっそ離婚しようかどうかも考えているの。
 きっと夫は私のことなんて……うぅ」

妻はその話を友達に話した。

「それで、あなたは旦那が嫌いなの?」

「……ううん。
 ただ、私に愛想をつかしたのかが心配なの。
 家に帰ってこないのも、私を好きじゃなくなったのかって」

「それなら、いい話があるわ」

友達は2つの話をした。

1つは、高級なお皿を大事にするあまり
家庭が壊れてしまったある一家の話。

2つ目は、孔子の大事な馬小屋を焼いてしまった弟子の話。

「でね、弟子は孔子に謝ったのよ。
 馬小屋を燃やしてごめんなさい、って。
 でも、孔子は答えたの。
 『お前たち、火事ででけがをしなかったか?』って」

「……いい話ね。
 でも、それが私となんの関係があるの?」

「あなたの旦那が、愛想を尽かしてないなら
 きっとあなたの体のこと心配してくれるよ。
 旦那の身の振り方で愛があるか確かめられるんじゃない?」

「そうね、試してみるわ」

そこで妻は夫が帰ってくる前に店を燃やすことに。
間違っても巻き込まれないよう店の外から。

もし、夫が自分よりも店の心配をしたら愛がない。
私の方を心配したらまだ愛が残ってる。

「よし、行くわよ」

夫が戻る時間に合わせて火を放つ。


夫は戻ってくると、
店なんかよりまっすぐ妻のもとに駆け寄った。

「おい! 大丈夫か! ケガはないか!?」

妻はその言葉がなによりも嬉しかった。

「ああ……あなた。
 まだ私のこと、大事に思ってくれてるのね」



「当たり前だ。
 お前がケガでもしたら、
 明日から遊んで酒が飲めなくなるだろ」