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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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しまった!心の鍵閉め忘れた!

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最近は心を施錠しない人が多い。

自分の気持ちをブログやらSNSやら
詩やらエッセイやらでダラダラ書いている。

そんな奴らの心に空き巣するなんてたやすい。

「ああ、わかるなぁ。その気持ち」

「でしょ? そう言ってもらえると嬉しいわぁ」

心空き巣の基本は相手に感応すること。
そうすれば、相手の心の施錠を緩めることができる。

まして、過去への共感は一番空き巣しやすい。

後は簡単だ。
限界まで施錠を緩めた後で、こっそり空き巣に入る。
持ち出すのはもちろん「気持ち」。

気持ちを手に入れさえすれば、こっちのもの。

「ところで、さっきからクソつまらない話を
 俺に聞かせてくれたから、殴っていい?」

「もちろん」

俺は心の空き巣に成功したことを確信し、
男を思いっきりぶっ飛ばした。

気持ちさえこっちにあれば、
見たもの聞いたものをどう思うかは俺の手の中。
早い話が完全操れるというわけだ。

さあ、次は誰の気持ちを盗もうかな。


「……って誰もいないなぁ」

町には誰もが自分をあらゆる方向で発信している。
共感に飢えている彼らはちょっと共感してやれば
コロッと自分の心のカギを放り投げてしまう。

でも、それじゃ俺の心が震えない。

この、心空き巣ナンバー2の俺が
こんな誰でも空き巣できる人間相手に満足できるか。

「はぁ、もっとこう……手ごたえのある相手がいいなぁ」

なんて考えてたのが間違いだった。


―― キキーーッ!

目の前に迫ってくる車に気付きもしなかった。
目が覚めると病院の一室だった、

「あの事故で無事だったなんて奇跡ですね」

医者は俺の復活を心から驚いていた。
あとで、医者の警戒心をなくして空き巣をしたところ
どうやら俺のけがは本当に奇跡の復活だったらしい。

そこで、ふと同じ病室の少女に目が入った。

「あの、こんにちは」
「…………」

少女は何も語らなかった。
窓から入る日差しが少女にあたって、
はかなげな雰囲気をより一層際立たせている。

普通ならこの少女と恋愛になるだとか
友達になりたいだとか思うのかもしれないが
俺が真っ先にうかんだ感情は職業病からくるものだった。


「この心空き巣はやりがいがありそうだ!」


誰ともコミュニケーションを取ろうとしない少女。
これほどまでに空き巣しがいのある相手はいない。

その日から俺はさっそく少女への空き巣をはじめた。

「やぁ、いい天気だね」
「今日の気分はどう?」
「君はいつから病院にいるの?」

「…………」

少女は最初こそ何を聞いても返事しなかった。
まるで鉄の扉を素手で叩くような気分だった。

それでも、少しづつ少しづつ少女との距離は詰まってくる。

気持ちを手に入れるにはいかないまでも、
少女の心の中へと入ることはできた。

「へぇ……随分と殺風景だなぁ」

心の入り口は何もない真っ白な部屋だった。
普通の人は心の入り口はいろいろ趣向を凝らすものなのに。

かっこつけたい人はおしゃれにしたり。
可愛く見られたい人は心を可愛くデコレートする。

「ふふ、殺風景、いいじゃないか。
 この先に何が待っているかがぜん楽しみだ」

少女の心にはなんの工夫もされていなかった。
複雑な構造もしていなければ、空き巣対策の罠もない。

ただ、むき出しの記憶が雑あるだけだった。

「これは……」

心の核を探すうち、少女の記憶にも目が行った。


少女の記憶の中には、幸福というものが何もなかった。

誰からも意識されず誰にも心配されない。
いつしかそれが当たり前になってしまい、
共感も同情も軽蔑もなにもかも感じなくなったのだろう。

「ああ……なんて気の毒なんだ……」

思えば、同じ病室なのに少女の見舞いに来た人は誰もいない。
存在があってないような少女。

俺との共通点は何一つないけれど、
なぜだか放っておけなけない気持ちになっていく。

俺の気持ちが少女を理解したいと思っているのだろう。

「知りたい……! もっとこの少女を知りたい!
 そして、どうにか救ってあげたい!」

少女の記憶を片っ端から拾い上げていく。
記憶を共有し気持ちの距離が近くなれば
多少なりとも少女を助けられるかもしれないと思った。

でも、上手くいくわけなかった。

「ダメだ! 彼女の心をいくら除いたところで
 彼女の力になることはできない!」

俺は彼女の心から出て、彼女に声をかけた。


「なあ、俺は今君の心を共有して感応してしまった、
 もう君を放っておけないんだ。
 なにか力になりたい、なんでも言ってくれ!」

「いいえ、気持ちだけで結構よ」

少女はにこりと笑った。

「私の記憶に共感してくれてありがとう。
 おかげであなたの気持ち、空き巣しやすかったわ。
 あなたったら、自分の心に施錠してから空き巣しなさいな♪」

「あ゛っ……!」

「それじゃ、ちょっとジュース買ってきて」

俺は気持ちのままにジュースを買いに走らされた。

その少女が空き巣ナンバー1の人だと気付いたのは
俺の気持ちがさんざんもてあそばされた後だった。