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僕の好きな彼女

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「長々とうるさいわよ、糞野郎」

――怪物は気づかない。
彼女が冷たくぴしゃりと怪物のコトバを自分のコトバで刈り取ったとき、怪物は驚きに目を丸くすらした。

「もうひとつだけ、聞いてあげる」

そして彼女が呟き、一歩怪物に近づいた。
その時、じわりと彼女の容姿に変化が起きた。
制服の腹の辺りに黒い染みが出来たのだ。
髪の毛がそして、風もないのに荒くもつれた。
ぴたり、と彼女の足下に何かが落ちた。
それは実に、彼女の腹からしたたった血液のようだった。
それを見て、怪物の様子に変化が起きた。
びくりと身を堅くしたかと思うと、かけられていた魔法が解けたかのように妖しい気配が霧消した。
「お、お前は」
その変化を目の当たりにして、怪物が呻く。
いや、その弱々しく情けない声音はもはや『怪物』のそれではなかった。
浅くうわずったそれは、例えば小さないじめられっ子のような卑屈さがあった。
もしかするとこの男は、元々はそうだったのかも知れない。
屈折した被虐性が、あるときに存在とは不釣り合いな実力を手に入れたために、暴発していたのかも知れない。
だがそれは『殺人』いう最悪の形として発露していた。
上目に男を睨み、一歩、また一歩と彼女がその側まで歩み寄る。
やがて息がかかりそうなまでに近づくと、男の鼻先に向かって、彼女がそっと呟いた。
作品名:僕の好きな彼女 作家名:匿川 名