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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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あいしているわ

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ロストヴァージンは、中二だった。
つまりはハードロック・ヘヴィメタルの毒牙にかかった時である。
思春期ならではのもやもやギスギスの心身に、MTVで見てしまった、
モトリー・クルーの
「スモーキン・イン・ザ・ボーイズ・ルーム」。
PVは一人の少年が先公にいじめられて、便所の鏡の向うの世界でモトリーのメンバーに遭い、強くなって、帰ってから先公をコケにし返すという痛快なもの。
ただただその体制なんかなんだよというケバさと音楽の力にやられた。
まるで胸に開いた鍵穴に、ちょうどピッタリの鍵を、画面の中から放ってよこされた感じだった。
わたしの進む心の道は、これなんだと思った。


オンナという生き物は、付き合う男によって好みの影響を受ける。
わたしももう、オペラやら本やらマンガやら受けまくりで、自分の軸なんかなくなってしまうほどだった。
ただ、心の芯にはいつも小さくも強く、その音楽の灯が燃えていた。
独りの時も、誰か趣味の違う人といても。
キックの効いた酒のように、そのタメを味わう時間はいつも残しておいた。


きらびやかな、時にあわあわと耳が急ぐようなギター、
様々なヴォーカルスタイル、ドラムのフィル・インのそれぞれのクセ、
ベースのヘヴィネス。
嫌われたって構わない。


昔はライヴハウスに足しげく通い、轟音の中に身をゆだねた。
そしてステージの誰かに恋をし、音楽をいとおしんだ。
黒いボディコンシャスの衣装に身を包んだ姐さん方の真似をして、
高校生なりに安いそんなミニドレスを買って着、爪先をさいなむ9センチのピンヒールを履き、スカーレットのルージュをひいて。
時に泣き、時に笑い、時に虚無のヴェールに包まれ、時に希望と喜びに全身をひたされ。
その頃、沢山の男と寝た。今もまるきり後悔はしてない。それなりに、自分の身を音楽同様にそこにゆだねただけのことだと思うから。


その時代のクレイジーさは今は消えてるけど、聴けば心は空間に舞い上がる。
自分だけの赤い空間に。だからいい。
その感覚はどんな人にもあると思う。
それがアニメや漫画や小説であれ、スポーツや料理であれ、コレクションであれ、自分の魂を湧き立たせるもの。
あなたと寝たあの人は、何が好きだった?影響を受けた?
そしてあなたの中でパイロットランプのように消えなかった灯は?


わかってるでしょう?
何かを芯から愛しているならば。


https://www.youtube.com/watch?v=hfKYRo-FHnU
作品名:あいしているわ 作家名:青井サイベル