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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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フリーズドライの夢は戻せない

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『将来の夢』

昔はたった一つだけ夢を持っていた。
でも、だんだん世界の広さを知るうちに
夢の数は増えていくばかりでどうしようもない。

「うーーん、俺の人生は1つじゃ足りないなぁ」

「いいから早く進路決めなさいよ」

「でも、俺の夢は3つもあるんだ。
 そこに優先順位なんてつけられない。
 どの道も同じくらいかなえるのは難しそうだし」

「だったら、他の夢は凍らせておけばいいのよ」

教えてもらったのは『夢フリーズドライ工場』。
早速行ってみると、優しそうな工場長が迎えた。

「やあ、こんにちは、
 夢フリーズドライ工場へようこそ。
 倉庫はすっからかんだから、好きなだけ詰められます」

「あの、ここはどういう場所なんです?」

「夢を凍らせて寝かせる工場ですよ。
 聞けば、あなたは夢が多すぎて悩んでらっしゃる。
 でしたら、ここで夢を寝かせておけばいい」

「……なるほど」

俺は夢を1つだけ残して、倉庫に凍らせて寝かせた。
倉庫にはほかの夢もあるらしいのが一瞬見えた。

「夢が必要になったらまた来てください。
 すぐに解凍してお渡しします」

「はい」

俺が残したのはバンドマンになる夢。
もやもやとした進路の悩みが晴れて、
とにかくバンドを一直線に進める気がする。

「しゃあ! 日本一のバンドにしてやるぜ!」


それから2年。

メンバーの脱退、オーディションの落選を経て
バンドはなし崩し的に解散へと追いやられた。

「……この夢も、もう終わりだな」

お先真っ暗。
俺はこの夢をあきらめて、工場にやってきた。

「あの、前に凍らせた夢を取りに来ました」

「はい、わかりました。どの夢を解凍しましょう」

「じゃあそれを」

夢が解凍されると、心に新たな目標が生まれた。

そうだった。
俺は自分のバイク店を持って生きていきたいんだ!


……のはずが。

なんだか、かつての熱意ほどの思い入れはなかった。

「あ、あれ? おかしいなぁ。
 かつては、バンドマンになりたいのと同じくらいに
 バイクの店を持ちたいって思ってたはずなのに」

気になったので、また工場に戻ってみる。

「え? 夢の熱量が落ちてる?
 あっははは、そりゃそうですよ。
 一度凍らせて、また戻すんですもん。
 夢のできたてに比べれば、鮮度はそりゃ落ちます」

「えっ」

それじゃ、かつて凍らせた夢は
どれを解凍してもかつての熱量は取り戻せない。

かといって、いつまでもバンドマンの夢を引きずるわけにはいかない。

「……まあいいです。
 それじゃ、そっちの夢を解凍してください」

「はい、わかりました」

あいまいに指さしたのがミスの原因だった。
しばらくして、工場長が持ってきたのは
俺がかつて凍らせた夢ではなかった。

「お待たせしました、解凍終わりましたよ」

でも、人の夢を覗きたい好奇心も手伝って
工場長からそのまま夢を受け取ってしまった。


「ああああ! アナウンサーになりたいっ!」


その瞬間、俺の人生で考えもしなかった選択肢が芽生えた。

間違いなく鮮度は落ちているはずだが、
それでも考えもしなかった夢を持ったことが燃料になり
俺の心でアナウンサーの夢は大きく燃え上がった。


それから5年が過ぎた。

「今日のゲストは、
 世界No1のF1ドライバー・竹豊さんです」

「はじめまして、竹です」

今じゃ司会もこなせる名物アナウンサーに。
夢の力って本当にすごい。

「竹さんは幼いころからF1ドライバーに?」

「ええ、まあ……そんな感じです」

「きっと幼いころから
 高い目標を持ってこられて努力したから
 今こうして一流の選手になれたんでしょうね」

番組『俺子の部屋』の収録が終わる。
なんだか途方もない疲れが押し寄せた。

「はぁ……なんか無気力だ……」

アナウンサー学校に入り、
必死に面接や試験の勉強をした、あの頃は楽しかった。

でも、夢がかなった今は心にぽっかり穴が開いている。

空虚。
毎日が灰色で退屈で、同じ繰り返し。

「人は目標がないと生きていけないんだな……」

その真理にたどり着いてしまった。
かといって、今さら新しい夢なんて
この荒んで感受性を失なった心から生まれるなんて……。

「そうだ! まだ凍らせていた夢があった!」

思い出すなり、俺は工場へダッシュした。


「夢を! 夢を解凍したいんです!!」

「ええ、わかりました。
 こちらへどうぞ」

まだ俺の夢は1つ残っているはず。
また新しい目標ができれば、
このマンネリな日々を卒業できる。

「……あれ? でも、おかしいですね。
 倉庫は結構前にすっからかんになってました」

「……え?」

「なかなか凍らせに来る人がいないんでね、
 こちらも商売あがったりだと話をしてたんですよ」

「そんな馬鹿な!!」

それでも倉庫に向かうと、
工場長の説明通り、凍らせていた夢はどこにもなかった。

「そんな……ない。
 俺の夢が……目標が……」

「感受性がとうに失われたこの世界じゃ夢は貴重です。
 夢を持つ人よりも、欲しがる人の方が多いくらいです」

「それじゃ俺の夢も誰かに……」

「でしょうな」

自分も同じことをした身だとはいえ
まるで自分の財産を奪われたような気持ちになった。

「そいつを探します。
 俺の夢を必ず取り戻してみせます」

「でも、こういっては何ですが
 夢を持っているからといって、
 必ずしもあなたにその才能があるかは……」

「そんなの知りませんよ!
 それで、俺の夢泥棒はいったい誰なんですか!」

工場長はそっとテレビを指さした。
ちょうど、俺の番組がオンエアーされていた。


「F1ドライバーの竹豊さんです。
 あなた、この人から夢を回収するんですか?」