花火
僕たちは電車に乗り、
最後の花火大会に出掛けた。
花火が始まる前の、
聞いたことのない名前の若手お笑いコンビの漫才は、
片方のヤツの、切りすぎの前髪ばかりに目がいって、
しゃべってる内容なんかは右から左に流れていった。
君は相変わらずの笑い上戸で、
周りはクスリとも笑ってはいないのに、
ひとりではしゃいで僕の肩をバンバン叩きながら
声を上げてウケていた。
楽しそうな君を見ていると、
また秋の花火大会にもふたりで来れそうな気がした。
今ならまだ間に合うのかな?
「ねえ、秋の花火大会も、
もしかしたらこの人たち漫才やるかなぁ?
今よりもっと面白くなってたりして」
僕は未練がましく彼女にそう言った。
「秋には忙しくなってるからこんなところで漫才はやってないよ。
こんなにおもしろいんだからブレイクするよ、きっと」
君の感性は普通の人とはかなりズレがあるんだよね。
そういうところも好きだったな。
そんなことを思っているうちに、
大きな音と色彩鮮やかな花火が空に舞った。
今日が最後のデートで気分が落ちてる僕にお構いなく、
花火は鳴り続け、何度も散っては咲いていた。
ふたりはひと言も言葉を交わさなかった。
僕は、夢の中にいるような、映像を見ているような、
魂が抜けていくような感覚だった。
高校時代に知り合い、
初めて付き合った彼女だった。
お互い違う大学に通うようになり、
君は違う人を好きになっていった。
もうここの花火大会には二度と来ないかもしれない。
✿
秋になって、
またここの花火を見に来てしまった。
あのお笑いコンビは相変わらず漫才をしていた。
片方のヤツの切りすぎの前髪は伸びていて、
しかも銀髪になっていて、
ちょっとあか抜けていた。
気が付けば、僕は彼らのしゃべりにクスリと笑っていた。