寝心地
私は財布ひとつで家を出て、
家具付きのワンルームマンションを借りた。
悔しくて眠れないのかと思ったけれど、
不思議なくらいにぐっすり眠れた。
彼は無職で、生活の面倒は私が見ていた。
いつもケンカばかりで、
彼のためにも、自分のためにも、
別れたほうがいいと思っていた。
これでよかったのだ。
彼のいない、ひとりきりの朝は新鮮だった。
とてもいいお天気だったので、
ベランダに布団を干した。
備え付けの布団だけれど、
羽毛布団で温かく、軽く、とても寝心地がよかった。
よく眠れたのはそのせいもあるかもしれない。
ベランダから外の景色を眺めると、
桜の花が咲き始めていた。
これからきっと良い出会いがあると思えたが、
私がいないとだめだ、と言ってくれた彼が、
少し心配になったりもした。
そんなことを考えていると、
羽毛布団から一枚の羽根が出て宙を舞った。
その羽根は真っ赤で、
ちょうど赤い羽根共同募金の羽根にそっくりだった。
私はとっさに羽根をつかんだ。
この赤い羽根は、
彼に募金した2年間に対するお礼だと思うことにした。
共同募金なので、
他にも温かい善意が差し伸べられるだろう、
有効に使うか、使わないかは彼自身の問題だ。