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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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あの世で お仕事 (5-1)

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第5章

   (一)

金剛山で隠れ住む、勝忠の仲間達は、久々の酒宴で些か度を過ごし、やまちゅうと帆阿倉勘蔵が、鬼の棲み家を目差して出発した時は、まだ高鼾であった。
勝忠の言葉通り、帆阿倉勘蔵は、身軽だった。峻嶮な岩場をひょいひょいと、まるで平地でも歩くかの様な足取りで進む。そして、その勘蔵を先頭に、鬼の棲み家に侵入すべく、やまちゅうと、ダルタニャンニャンが続く。
まず、土地勘のある肝蔵が、先行して行き先の安全を確かめては引き返す。それから、やまちゅう達が、彼の先導で進む。途中、この山々に棲む鬼達に見付かれば、鬼の棲み家の探索どころではなくなるのは、間違いない。それどころか、人間を監視する鬼達の眼は、一層厳しくなり、その詮議を受ける人間の被害も増すであろう。三人の進む速度は遅くなるが、
「鬼の棲み家に、近付くほど警戒が厳重になる。従って、必ず勘蔵を先に建て、鬼の居ない道を選ぶ様に。」
と、何度も繰り返し三人へ忠告した勝忠の言葉を守っての事である。
三人は、ゆっくりとした足取りながらも、着実に進み、鬼の棲み家が在る、峰の鞍部に達した。
「やまちゅう、此処から先は、何時鬼が襲ってくるか分からない。進むも停まるも、危険は同じ事。だから、斥候は止めて、三人同時に進む。ダル(タニャンニャン)も用心するのだぞ。」
と、勘蔵が、圧し殺した声で言った。やまちゅうは、黙って頷いた。ダルタニャンニャンは、
「カンゾウ。セッコウノ、イミ、ワカリマセン。」
と、高まる興奮が一気に冷める様な事を言った。やまちゅうが、
「イミ、ワカリマセン、デ、イイデス。ダカラ、ウシロ、ツイテ、キナサイ。」
と、ダルタニャンニャンの話し方を真似て、日本語で言い、一人ポカンとしているダルタニャンニャンに構わず、峰を登り始めた。そして、そっと勘蔵に近付き、
「あの南蛮人を連れて来たのは、間違いだったかな。」
と言った。やまちゅうが、肝蔵に話した時、遅れてはならじと、二人のすぐ後ろまで、来ていたダルタニャンニャンが、
「ダレガ、キチガイ、デスカ?」
と、またまた的外れの言葉をいう。やまちゅう、本気で怒り、堪らず振り返って、
「誰もキチガイだとは言って無いぞ。俺は、『間違い』と言ったんだ。お前のキキチガイだ!」
と、言うが、ダルタニャンニャンは、
「ホラ、ヤッパリ、ワタシ、キチガイ、ダト、イッタ。アヤマレ!」
と、殆ど状況が分からないまま怒りを静めようとしない。やまちゅうは、何か言い返そうとしたが、勘蔵になだめられ、仕方なく謝って、先へ進んだ。
五合目付近で、初めて鬼と遭遇しそうになったが、目端の効く勘蔵の働きに依り、三人は、いち早く身を潜め鬼をやり過ごし事無きを、得た。
「この辺りから、警戒が更に厳しくなるから、油断の無い様に・・」
と、肝蔵が言った。
岩の間をすり抜け、灌木の下を掻い潜りして、音をたてない様に登って行く三人。
七合目まで来ると、鬼の棲み家の屋根が見え始めた。その一部を見ただけでも、建物が贅沢に造られて居るのが想像出来る。
肝蔵から仕入れた情報で、やまちゅうは、棲み家の正面は勿論、側面からの侵入も困難であると判断した。また裏側は、立て板の如き岩壁で仕切られ、建物全体、蟻の入り込む隙間も無い。
彼は、小高い岩の上に登り、建物とそれを取り巻く周囲の状況を遠望した。そして、山の中腹を大きく迂回して、峰の頂上に登り、そこから岩壁伝いに棲み家の屋根に下り、その屋根の何処かから侵入する以外無いと考えた。やまちゅうは、その事を二人に話した。肝蔵は、即座に、
「あの切り立った崖を下りるのは、危険じゃ。例え鬼に見付かる事がないとしても、岩壁を下る時、手元が狂えば、真っ逆さまに落ちてしまう。」
と言った。しかし、鬼の目を掻い潜っての侵入は、他の場所からでは、不可能に近い。やまちゅうは、
「当に、守るに易く、攻めるに難いとは、あの棲み家の事だ。例え、中へ入れても、また出て来れる保証は無い。だから、上手く入り込めたなら、いっその事、この際、思い切って棲み家をぶっ潰してやろうと思う。」
と、彼の考えを話した。そして、肝蔵に、
「この事を、勝忠に伝えてくれ。そして、棲み家の近くで待機して、俺の合図で攻撃を仕掛けるのだ。俺が、上手く侵入出来たら、中から火を放つ。屋根から煙が昇れば、それが、攻撃開始の合図だ。」
と、付け加え、勘蔵が止めるのも聞かず、峰の頂きへ向かった。
勘蔵は、急いで勝忠の元に引き返し、やまちゅうの言葉を伝えた。
それを聞いた勝忠は、直ちに手勢百人ほど率いて、鬼の棲み家の在る峰に急いだ。

やまちゅうが、山を迂回して峰の頂きに着いた時、既に夜が明けて居た。
頂きは、ごつごつとした岩ばかりで、立木一本も無い。だが、彼には、事を上手く運ぶ目算があった。
峰を迂回し、鬼の棲み家の真裏から山頂に登りながら、彼は、途中、棲み家を攻撃した後の退路を入念に確認した。攻める時は、勢いも良く、士気も上がっている。しかし、退く時は、例え勝ち戦でも難しい。相手方が、やけくそになって、命を投げ出して挑んで来るからである。それに、この攻撃が、必ずしも成功するとは決まって居ない。鬼どもの返り討ちに遭い、傷ついた味方を庇いながらの退却となるかも知れない。いずれにしても、此処が最初の正念場だと、やまちゅうは、思った。そして、
(金剛山の鬼は、勝忠の調べでは、総勢約五十余り。棲み家が二つ。普通考えれば、二手に分かれ、やまちゅうが侵入しようとして居る館に、二十~二十五。残りの鬼が、道沿いの棲み家と見廻りに分かれている。道沿いの棲み家は、この峰から離れているので、すぐ応援に来る心配は少ない。しかし、見廻りの鬼が異変に気付き、道沿いの棲み家に知らせたとすれば、この棲み家の鬼どもを、二時間以内で片づけなければ、まず勝ち目は無い。)
と、彼なりに考えた。

山頂の岩壁から覗けば、鬼の棲み家の屋根が半分ほど見える。やまちゅうは、上から適当な足場が有りそうなルートを目で追った。屋根に辿り着くまでには、二百メートルは下らねばならない。その切り立った岸壁の中ほどまでは確認出来るが、其処から下の様子は、まったく分からない。一旦、岩肌を下り始めたなら、後は、運を天に任せる外無い。
頂きの見廻りは、鬼二匹が一組で、三十分に一回程度。運の良い事に、彼らは、棲み家のある側は、あまり気にして居ない様子である。三十分で、何処まで下りる事が出来るかが、まず重要である。
鬼の見廻りをやり過ごした後、やまちゅうは、岩場へ取り付いた。初めのうちは、ややなだらかで、さほど問題無く下りる事が出来た。だが、四~五十メートル下りた辺りから、勾配が急になってきた。しかし、まだ足場は充分確保できる。周囲に気を配りながら、一足ずつゆっくりと歩を運ぶ。岩壁を下りる間に見付かれば、進路も退路も絶たれて居るのと同じ状況である。だから、小石一つ下に落とせない。物音に気付かれ、警戒が厳重になれば、自分の身がそれだけ危険になるのである。