人間カテゴリー・エラー
はい
●だったら、人付き合いよりも機械が好きですね
はい
●機械が好きなら、オタクですね
はい
●オタクなら友達は少ないですね
はい
●友達が少ないなら童貞ですね
はい
『分類が終わりました。
あなたのカテゴリーは『A-118』です』
世界に導入された"カテゴリー分けロボ"。
完璧な精密性を誇るそのロボにより、
俺の人間としてのカテゴリーが決まった。
コンビニに行っても、カテゴリーによって品ぞろえが変化する。。
「いらっしゃいませー」
店には俺の大好きなオタクグッズが並び、
お気に入りのアニメはもちろん、趣味に沿ったものが陳列される。
「おお、探していたお菓子!
今までネットでしか手に入らなかったのに!」
オマケ付きのお菓子を手に取り、
店を見回すがもう一つの欲しいものがない。
そこで、メイド姿の店員に声をかけることに。
「あの、すみません。
ホームパーティ用の風船ありませんか?」
「ありませんよ。どうして使うんですか?」
「友達のサプライズパーティに使いたくって」
「A-118カテゴリーの人はパーティなんかしません。
ガラにもないことはやめて、
A-118らしく、ネット飲み会くらいがおすすめです。
ああ、ネット飲み会用のマイクならありますよ?」
「そ、そうですか……」
結局、風船は手に入らなかった。
ネットでもA-118用の物しか買えなくなったためだ。
俺の趣味に即したものは以前より手に入りやすくなったが……。
「なんか、違うよなぁ」
ぼやいていると、昔の友達からメールが届いた。
『久しぶりに飲まない?』
数日後、旧友との飲み会に参加した。
彼はカテゴリー:B-008。
「私はビールをお願いします」
「あ、俺も同じもので」
「すみません、お客様。
A-118カテゴリーの方はお酒を飲みません。
ですから、ビールは注文できないんです」
「あ、そうですか。じゃあコーラで」
「かしこまりました」
A-118カテゴリーは俗に『オタクカテゴリー』とされている。
友達の少ない人が入るカテなので、
そもそも酒を飲みかわす機会も少ない。
それだけに断られるのもなんだか納得だった。
「でも、驚いたよ。急に飲みに誘うなんて。
もうかれこれ1年は連絡とってなかっただろ?」
「そうね。こっちもいろいろ忙しかったから」
久しぶりに旧友との友情を温めていた時間は、
とても貴重ですごく楽しかった。
だけど……。
「私ね、最近ダンスにはまってるんだ」
「こないだ友達と行ったフレンチがおいしくって」
「大好きなバンドのフェスが大盛り上がりだったの!」
「そっかぁ、楽しそうだなぁ」
話を聞けば聞くほど、住む世界の違いを突き付けられた。
翌日、興味をそそられた俺はダンス教室の戸を叩いた。
「A-118カテゴリーの人がダンス?
そのカテゴリーはゲームとかサブカル系でしょ?
A-118は入会できません」
あっさり突き返された。
負けじと、ちょっと高めのレストランにも行ってみた。
「お客様、大変申し訳ございません。
A-118のお客様の召し上がるものはインスタントばかり。
当店とは合わないのでお断りいたします」
「確かにインスタントばかりだけども!」
また断られた。
いやいや、バンドのフェスには参加できるだろう。
そう思っていたが……。
『カテゴリーエラー。
A-118の人はフェスなんか参加しません。
カテゴリーに合わないため、チケット購入できません』
「ちくしょーー!」
何にもできなかった。
ゲームの祭典のチケットはいくらでも買い放題なのに。
「カテゴリーができて便利にはなったけど……。
俺という人間そのものの幅が狭くなっている気がするなぁ……」
テレビをつけてもチャンネルはA-118専用。
無理に回そうとすれば『カテゴリーエラー』。
漫画やアニメやメイドの情報はいくらでも入るけど、
友達が話していたことは何一つできやしない。
無理にやろうとしても
――カテゴリーエラー。ガラじゃないのでやめましょう。
と、警告が出てはじき返される。
「きっと俺は死ぬまで自分の好きなものだけに囲まれて
自分の趣味に合うものしか見ないで死んでいくんだなぁ……
いやいやいやいや!! それだけは嫌だ!」
自分の老後を想像して寒気がした。
このまま何一つ新しい自分を見つけられずに死ぬなんて。
「カテゴリーエラーがなんだ!
だったら、A-118カテゴリーそのものを
どのカテゴリーよりも幅広いものにしてやる!!」
ダンス教室には入れなくても、ダンスはできる。
レストランに行けなくても、料理はできる。
フェスに行けなくても、音楽はできる。
そうして、俺は自分の趣味を
これまでのオタク趣味から拡張することにした。
慣れないダンスをネットにアップし
見よう見まねでフレンチ料理を作ったり
はじめて楽器に触れておぼつかない演奏をしまくった。
それから、20年がたった。
―― 3
―― 2
―― 1
『発射』
爆炎ととともにシャトルは空へと打ちあがる。
体に地球の重力がかかって、イスに吸い付けられる。
「しかし、A-118カテゴリーの人間が
まさか宇宙飛行士になれるなんて、今でも驚きだよ」
「ああ、自分でもびっくりするくらいさ」
俺はA-118カテゴリー特有のマニア気質を活かし、
他の趣味を始めるうちに気が付けば宇宙飛行士になっていた。
「カテゴリーの分類は変えられなくても、
枠の中で、自分を変えることはできるからな」
「HAHAHA。本当にすごいガッツだよ。
今じゃA-118カテゴリーは最も自由なカテゴリーになったしな」
「ああ、俺も頑張ったかいがあるよ」
俺が始めたガラにもない活動が
A-118カテゴリーの枠を広げてくれた。
前はマニア・オタクの集まりだったA-118も、
今じゃ宇宙飛行士からアイドルまでいるくらいだから。
「きっと、らしくないことをするのが
自分を成長させてくれるヒントが隠されているのかもね」
「さあ雑談はここまでだ。
そろそろ星が見えてくるぞ」
窓の外には到着予定の星がみるみる大きくなってくる。
今日、人類は地球という枠を越えるのだ。
「さあ、上陸だ! 人類の成長のために!」
"カテゴリーエラー。
地球人は殺し合いをする野蛮人なので
星に入ることはできません"
シャトルは思いっきり弾き返された。
作品名:人間カテゴリー・エラー 作家名:かなりえずき