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青井サイベル
青井サイベル
novelistID. 59033
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スティル・クレイジー

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「70年代に活躍した伝説のロックバンドが、中年になって金欠とくすぶる青春のために再結成するが、皆ほんっとうにしょうもない」
という、わたしの中ではマリファナ買うくらいドキドキする映画(しかもイギリスもの。鉄板)を借りてきた。



これまで多くの物を得、同じくらい失い続けてきた。
一勝一敗、でもまだわからない。
昨夜は暴れ狂う心を寝かしつけるのに苦労した。
若い頃からいる、わたしの中の怪獣。頼むからそうちょいちょいと出てこないでほしいものだ。



映画のバンドはよくあるように、女と名声とロックで頭がおかしくなっていた。
若いゆえの馬鹿げたことや、若いからこその真のあやうさから、中年になったバンドの面々が年老いてから抱える馬鹿げた情けなさから、真の悲しみと孤独を織っていく。



ジジイになってルックスも衰え、人々の記憶からも消え、しみったれた暮らしをし、
それでも降ってわいた華やいだ話に胸を躍らせ、
また「もう、ガラじゃないよな」と落ち込んで。
彼らを慰め奮い立たせるのは彼ら自身でしかない。
ええカッコしいで結構、それなりになるようになるんだし。
もとの自分を取り戻すのはパーフェクトにできるわけじゃなくても、自分以外にはできない。



わたしもロック狂いの女の子で、言っちゃあれだがよくもてて、狂瀾の日々を送ってきた。まあヤリ〇ンだったからもてたんだな。
バンドのメンバーに指されるのは神託にひとしい。
そのあと何があるのか、よくわかってなかった。ただ狂気、が、ベースにあったのは確か。
それがわたしの頭を医学的にイカれさせてしまった可能性も高い。
寒空に氷の海に飛び込めば、そりゃ誰だって肺炎になる。
怪獣はもうすでにいたのに、でかく育てるようなことをしてしまった。



ルックスは衰え、心も弱った。世間から隔絶された暮らしを生きている。
降ってわいた成功話もない。劇中で登場人物の一人が言う、
「一生栄光なんかとは縁のないひとたちもいるのよ」。
夢見て、それなりにちょっかいを出したぐらいでは山は動かない。
ただ、こんな映画を観ていると、彼らのように、くすぶる何かを胸に感じる。
それはたとえば、髪型を変えようとか、なんらかのシラミをふっきろうみたいな、
小さいことだ。小さいけど大きいことだ。



確かに馬鹿げたものからは足を洗った。大概は。
ただ、静かなロッカーも自分の中にはいる。
その熱意を、胸の奥、めのうの玉のように抱いていてはいけないだろうか。
長い年月のあいだに積もった悲しみは、ところどころ根雪になっている。
でもそれをクリスマスツリーのきらきらした飾りにしちゃうくらいの年の功は、もう持っててもいい。
静かな、年老いたロッカーになっていこう、これからの目標として。