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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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    ノブ(第2部) 




  
       親子





昼過ぎの東京駅に、ひかり号は定刻通りに到着した。

「さて・・」

コンコースの中で、ボクは迷っていた。
「アパートに帰るか」
でもな、アパートに帰ってもすること無いし・・・結局、ボクは家に帰るコトにした。

一人になるのが嫌だったのかもしれない。

ディパックを肩にかけて、東京駅の地下ホームに下りて総武線の快速に乗った。

快速は馬喰町を過ぎて、錦糸町の手前で地上に出た。
懐かしい下町の、夏の風景が窓の外に広がった。

「こっちも暑そうだな」
新小岩で下車したボクは、駅の立ち食い蕎麦で腹を満たして都バスに乗った。

バスを下りて少し歩くと、我が家は変わらずにそこにあった。
「久しぶりだな、帰るのも」

考えてみると大学が始まって一度も帰ってなかったのだから・・実に4カ月振りの実家というコトになる。

「ただ今!」と玄関を開けたが、応答は無い。

なんだ不用心だな・・と上がり込むと、居間では両親が昼過ぎのNHKドラマを見ていた。

「あら、あんた・・いつ帰ったの?」
「今だよ、ただ今って言ったのにさ」

親父も振り返って「おう、お帰り」と簡単に言った。

全然気付かなかったわ・・と、それでもお袋さんは立ちあがって台所に行き、冷たい麦茶を入れてくれた。

「そうそう、夕べ電話があったのよ」
「あんたの同級生にヨシカワさんっている?」

「う、うん・・いるよ」
「その子がね、行方不明なんだって!その子のお父さんから電話が来てね、うちの娘をご存じですか?だって」
「あいにく存じ上げませんけど?って言ったんだけどね」

ありゃりゃ、とうとう行方不明になっちゃったよ、恭子。
「あんた、知り合いなの?その子と」

驚いた、まさか九州からの探索が我が家にまで及んでいたとは。
でも考えてみたら、名簿頼りの捜索だから、小川家に電話があってもおかしくはないな。

「同級生だよ、吉川さんは」
「多分、女友達と旅行にでも行ってるんじゃないの?」
「それならいいけど・・変な事にでも巻き込まれたんじゃないかってご心配なさってたわよ?!」
「もう連絡は取れたのかしらね〜」

お袋さんはまたドラマに戻ったが、今度は親父が振り向いて言った。


「伸幸、お前・・・随分と具体的な推理だな」
「女友達と旅行だと?」

ドキ!不用意な一言だったが、常に後悔は先に立たない。
何とか取り繕わなきゃ、この場面を。

「お前、学校が終わってから今までどこで何してたんだ?」
「昨夜の電話の後な、母さん、かけたんだよ、お前のアパートに・・」

「オ、オレ、さっき東京に帰ってきたから・・・」
「一人で京都ブラブラしてたからさ」

「一人、でか?」
「うん、一人旅」
夜行寝台に乗って、京都に行って色々見て周ってたと説明した。
これは本当のコトだったからスムーズに言えたけど。

ま、お前の一人旅は今に始まったコトじゃないからな、別に構わんが・・と親父は続けた。
「女の子の親ってのは、またうちとは違うからな」
「必死だったそうだぞ、昨夜の電話は」
「同級生なら今度会ったら言っとけ!親に心配かけちゃいかんって!」

うん、分かった・・とボクは胸を撫で下ろした時、親父がまた言った。

「不良か?その娘は」
「ち、違うよ、そんな変な子じゃないって、恭子は!」

今度はお袋が素早く振り向いた。
「ちょっと、あんた・・恭子って言った?今」

しまった、また墓穴を掘っちまった。
「呼び捨てにする位、親しいの?あんたの彼女なの?」
その恭子さんって・・とボクを凝視して言った。

あ〜、もう、オレって何てバカなんだろう・・・自分に呆れたい位だな。

「そうじゃなくてさ、ひと学年、百人足らずだから・・」
「みんな、そんな感じで呼んでるんだよ、下の名前とかで」
「オレだって、みんなからはノブって呼ばれてるんだからさ」

全く、苦しい言い訳もあったもんだ。
我ながら・・・情けない。

「・・・ま、いいさ」
親父の顔に納得の表情は見えなかったが、取り敢えずこの場は収まったみたいだった。

「でも、お前、何か変わったな」
「え?どこが?」

「受験が終わってから、入学式まで・・・お前、死んだ彼女のコトで頭が一杯だったろう」
「学校が始まってからは、父さん、会ってないから知らんが・・」
少なくとも春頃よりは昔のお前に戻ったみたいだな・・・と親父は言った。

「そう?」
「オレ、そんなに暗かった?」

親父は真面目な顔で続けた。
「暗い明るいじゃなくて、投げ遣りに見えたよ、父さんには」
「でもな、父さん、かけてやるうまい言葉が見つからんでな」
済まなかったな、伸幸・・・とボクを見つめた。

「ううん、済まなかったなんて・・」
「オレ、一杯いっぱいだったから、あの頃」
「だから、勉強には集中したよ。それしかない・・みたいに思っちゃってね」

うん、お前の成績、悪くはなかったぞ・・と親父は言ってくれた。

「でも、あんた・・・もうちょっと頑張ったら一番になれたんじゃないの?」
「上位3名に入れば1年間の学費、免除になるのよ?知ってた?」

え?そうなの?とボクは初めて聞いたシステムに驚いた。

「でも・・無理、それは」
「オレより出来るヤツはゴロゴロいるからね・・多分、無理だよ」
「そうなの?」
「どうせなら、もうちょっと頑張って頂戴よ、うちも苦しいんだから」

お袋さんは最後にそう言い捨てて、台所で洗いものを始めた。

「お前、母さんには内緒にしといてやるが・・」
「ほんとは、そのヨシカワさんと行ってたんじゃないのか?京都」
親父が小声で聞いてきた。

「え、バレてた?」
「当たり前だろ、あんな子供騙しの言い訳なんざ聞く耳持たんぞ、父さんは」

「そうだよね」ボクは、親父なら言ってもいいか・・と腹を決めた。

「実はね、付き合ってる、オレ達」
「オレ、暗かったからさ、彼女すごく心配してくれてね」
「何か、放っておけないって・・」

試験が終わってから、一緒に飲んだり海に行ったりして、好きになったと告白した。

「そうか」
「お前の顔が変わったのも、その子のお陰なんだな」

「いいよ、父さん・・子供の恋愛に口出しするほど野暮じゃないから、どうのこうの言わんが、親御さんに心配かけるのは今後控えろよ?!」
うん、分かったとボクは神妙に言った。


「で、お前が帰って来たってコトは彼女も帰ったんだな?家に」
「うん、今朝、京都駅で別れた」

「そうか、お前・・」
親父は何かを言いたかったんだろうが、そこから先は言い淀んで言わなかった。

「ま、いい」父さんは少し休むから・・・と、テレビを消して横になった。
親父の言いたかったコトは、何となくだけど分かった気がした。

ボクは居間をぬけて階段を上がり、懐かしい自分の部屋に行った。

主を失って閉ざされた部屋は蒸し風呂の様に暑かった。
窓を開け放して空気を入れ替えて、クーラーのスイッチを入れた。

部屋は以前のままで、子供の頃から使っていたベッドもそのままだった。
暫くして部屋が涼しくなってきて、ボクは窓を閉めベッドカバーをはぐってゴロっと横になった。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ