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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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心人間 or 体人間

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「あはは、面白いですね」

「お前な……心にも思ってないこと言うんじゃねぇよ。
 顔が笑ってないんだよ。このうそつきめ」

そんなことはない。
本当に心から先輩のギャグは楽しいと思っている。

「お前と話しているとつまんねぇわ。
 リアクションも薄いし、全然笑わないし」

※ ※ ※

昔から、あまり表情に出ない性格だった。
飼い犬が死んだときも心から悲しかったのに、
涙一つ、それどころか悲しい顔にすらならなかった。

ついたあだ名は「ターミネーター」

「俺も感情はあるんだけどなぁ……」



「知ってるよ」

誰もいない部屋なはずなのに声が聞こえて振り返った。
後ろには体が影のようなシルエットの人間がいる。
ただし、顔は……顔だけは俺だった。

慌てて鏡を見てみると、
自分の顔には影のようなシルエットになっている。

「なんでお前、俺の顔をしているんだ?」

「僕は君の心人間。心が人の形になって分離したんだ。
 今の君には感情がごっそり抜け落ちているはずだ」

「確かに、この状況だっていうのにぴくりとも驚かない。
 それじゃ体は……」

「体は君のものだ。心は僕が担当する。
 僕らはふたりで1人の人間なんだ」

「でも、俺の体で一部シルエットになっているところが……。
 いや、やっぱりなんでもない」

心人間と、体人間。
それぞれ役割分担しながら一緒に生活することにした。

「へぇ! そうなんだ!」
「すごいな! それ面白い!」
「おいしーーい! これおいしいな!」

心人間は感動を全力で表現する。
体人間の俺は仕事などを担当する。

しだいに人が集まるようになってきた。


心人間の方だけに。

「今日、飲みに行かないか?」
「今週の休日どっか行こうぜ」
「あの、よかったら今度食事でも……」

誘いはいつも心人間の方にばかり集中した。
そうはいっても、心と体が離れるわけにはいかない。

心人間が行く場所には、俺も同行する必要があった。

「あっちは、いらねぇんだけどなぁ……」

聞こえよがしによく愚痴られた。
体人間で感情が抜け落ちているので、なにも感じないけど。

心人間から話があったのはしばらくしてから。

「……なあ、僕たち別々になったほうがよくないか?」

「なぜ?」

「わからないか?」
「わからない」

「みんなが求めているのは、感情丸出しの僕。
 なにも反応を返さない君じゃない」

「そうか」

「なにも思わないの?」

「……体人間だから」

「今ここで死ねって言ったらどうする?」

「死にたくはない。でも恐怖はない」

「今、僕は君を重荷に感じて苦しくて死にそうなんだ。
 だから、その体をよこしてさっさと死んでくれ!」

心人間はシルエットの体で首を絞めてくる。
もちろん、実体の俺を絞め殺すことはできない。

「くそっくそっ! 心じゃ体を殺せない!
 求められているのは……僕なのに!!」

「わかった。それじゃあ俺は死ぬ」

「えっ……」

「求められているのは俺じゃない。
 ただ仕事をして、ただ生活をするだけの
 機械みたいな人間……求められているのは俺じゃない」

感情がない人間は、もう人間じゃない。
人は異質に対してアレルギーみたいに遠ざけてしまう。

「人に求められているのは俺じゃない」


「だからなんだよ!!」

心人間は怒鳴った。

「お前の気持ち、僕がわからないわけないだろ!
 求められるから誰かに合わせるのか!? 違うだろ!
 本当はそんなこと望んでないだろ!」

「俺は……わからない。感情がない」

「だったら僕が言ってやる!
 僕らは……俺たちは、等身大の自分でいたいって思ってるんだ!!」

その瞬間、心人間は泡となって消えてしまった。
自分の体に心が戻ってきたのがわかる。

「わかった……自分の気持ち。
 俺はこのままでいたいと思っているんだ。
 感情表現がへたくそな自分が好きなんだ」

たぶん、心人間ほど人気は出ないだろう。
でも自分でいられるならそれでいいと、少し思えた。

気がかりなのは、いまだ戻らない体の一部。


つけっぱなしのテレビからニュースが流れた。

『最近になって頻発している変態が捕まりました!
 犯人の体は影のようなシルエットとなっております!
 ……一部分をのぞいて』

中継にはモザイク加工されたシルエット人間が映し出された。


「俺は性欲人間! 性欲まるだしでなにが悪いぃぃーー」


俺は戻った感情で「恥ずかしい」と心から思った。