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ニュースの時間

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災難



「来る」
女は期待を込めて花びらのようなものをむしり取った。そして道のかなたを見る。しかし女の待ち人の姿は見えない。

「来なぁい」
女はふたたびむしり取る。頭に浮かぶいやな予感を振り払うように、女は背筋を伸ばして道のかなたを見る。しかし女の待ち人の姿は見えない。

「来る」
「来なぁい」
「来る」
「来なぁい」
「来る」
「来なぁい」

もう来ないのだろうかと諦めかけたようにゆっくりと、残り少なくなった花びらのようなものをむしる。その時、女に愛しい者の声が聞こえた。

「ごめんごめん、思ったように仕事が終わらなくて焦ったよ」
「ううん 来てくれて嬉しい。もしかして、嫌われてしまったのかなぁなんて思ってしまってた」
「なかなか手強い天使だったんだ、苦労したよ」

悪魔のカップルが抱き合うように去って行く。

     *         *

………本日午後6時頃、銚子沖で操業中の漁船から救難要請があり、海上保安庁より救難艇と救難ヘリが救助に向かいました。辺りの気象条件もおだやかで、全員が救助されました。助かった漁師の話です。

「ありえないことですが仲間が自ら海に跳び込んだように見えました。えっ!と思っていると何か見えないものに捕まれて海に放り投げられたように感じました。ええ、夢をみていたような気分です」

もう一人、同じ甲板で作業中で災害に遭われなかった漁師は

「何が起きているのかわかりませんでした。一人ずつ自ら海に跳び込んでいるようにも、風で飛ばされているようにも見えました。いや、人が飛ばされるような風は無かったです」

海上保安庁も、災害に遭った漁船も一応に首をかしげているとのことです。………


作品名:ニュースの時間 作家名:伊達梁川