悪魔の謝罪ビジネス
(アヤマ=レナーイ 2120~2200)
偉い人が申し訳なさそうな顔で、
テレビ画面の前で頭を下げる行為……謝罪。
その姿を見て視聴者はストレスを発散する。
なにせ自分よりも立場も権力もいろいろ上の人間が
みっとない姿をさらしながらへりくだるのだから。
それに満足した視聴者は「謝罪いいね!」を送り儲けが生まれる。
そんな社会構造になってからというもの、
各メディアでは謝罪番組が作られるようになっていた……。
「そして、なぜワシのところに来た? 人間」
悪魔はのこのこ丸腰で来た人間に問いかけた。
「実はとんでもない悪魔的な謝罪儲けの方法を思いついたんです」
「謝罪儲け、というと。
地位や名誉がある人間が謝罪をすることで
入ってくる印税のことか?」
「はいそうです。
ですが、私には今地位も名誉もありません。
そこで悪魔の力を借りようかと思いまして」
「なるほどな、面白い。
ちょうど退屈していたところだ」
悪魔は腰を上げて人間に協力……もとい利用することにした。
「ワシの力を借りたいようだが、
具体的にはなにをしてほしいのだ?」
「まずは、人間の姿になってください。
できますか?」
「くだらないこと聞く。
悪魔のワシには人間に化けることくらいたやすい」
誰が見ても人間にしか見えない姿に悪魔は早変わり。
悪魔の不思議パワーのすごさを思い知った。
「では、悪魔さん。
今日からあなたは私の秘書として行動してもらいます」
「なぜだ」
「これから頻繁に悪魔の力が必要になるからです」
人間の宣言通り、少しも遠慮することなく
悪魔の力はフル動員することになった。
気が付けば、大企業の社長にまでなっていた。
「どうだどうだ、人間。
悪魔の力をもってすればこの程度、造作もない。
さあ、これだけの地位で謝れば儲けも半端じゃないだろう」
「いいや、まだだ。この程度じゃまだまだだ」
「正気か? なにを考えている?
たしかに地位や名誉をこれ以上高めれば
それだけ謝った時の儲けは大きいものにはなるが……」
悪魔は言葉をつづけた。
「地位が高いほど儲けは多くなるが、
それだけ損してしまう可能性も大きくなるんだぞ」
高い地位の人間が謝れば大量の儲けが発生する。
けれど、同時に「怒り」を買った分損失も発生する。
儲けが大きくなっても、
怒りを多く買ってしまえばプラスマイナスゼロになる。
「いいや、問題ない。
悪魔、もっともっと地位と名誉を与えてくれ」
「いいだろう。いくらでもくれてやる」
悪魔は面白がって積極的に力を貸していった。
はためには仕事熱心な秘書にでも映っていただろうが。
悪魔が奔走したかいあって、
もう社長の座にとどまることなく一国の王にまでのしあがった。
「さあ、人間。そろそろ謝るんだな?
とはいえ、ここまでくれば
どう謝っても、怒りの矛先にさらされて儲けなんてなくなるがな」
「いいや、まだまだ。もっと地位と名誉をよこすんだ」
「あはははは! ついにヤケになったか?
それとも、謝らずに終わるつもりか?
まあいい。どちらにせよ退屈はしなさそうだ」
悪魔はさらに力を貸したので、
人間の地位はもう推し量ることができないほどになった。
「うん。そろそろ謝り時だろうな。
秘書……じゃなくて、悪魔。謝罪会見の準備をしろ」
「ついにやるんだな。
どれだけの儲けが出るのか想像もできない。
そして、どれだけの損害が出るのかもな」
潔く謝ることで儲けは飛び込んでるも、
怒りを買ってしまえば儲けから天引きされてしまう。
どれだけ儲けられるのか。
悪魔はいくら考えても、人間の破産しか思いつかなかった。
「さあ、人間。謝罪会見ができたぞ。
どれだけの金をかせげるのかワシに見せてくれ。
ここから大金持ちになる大逆転をしてみせてくれ」
「ああ、もちろんだとも。
一気に大金をつかんでみせる」
人間と悪魔は謝罪会見場に姿を見せた。
秘書に化けている悪魔は顔のニヤニヤが止まらなかった。
今の地位と名誉を手に入れるために
悪魔の力でとても言えないことをやりまくっていた。
いまさら、どんな誠意のある謝罪をしたところで
儲けよりも損失の方が大きいに決まっている。
さあ、劇的な破滅劇を見せてくれ!!
「このたびは申し訳ありませんでした!
悪いのはすべてこの秘書です! 秘書がやったんです!」
その瞬間、謝罪した人間には大金が転がり込み
怒りを買った悪は大きな損失をくらわされた。
「こ、この悪魔ぁ~~!!」
悪魔の声は記者たちの声でかき消されて終わった。