愚痴貯金でめざせ億万長者!
「あー今日新人が入ってきたんだけど、
本当に使えなくてまったくむかつくぜ。
俺の仕事ばかりがどんどん増えるばかりだ」
貯金箱に愚痴を吐きかけると、
チャリンと音が鳴って、数字が増えた。
¥500
「おお、本当に愚痴が金にかわるんだな!
これはすごい! いいかもしれない!」
これくらいの愚痴で1回500円なんて、
実はかなり良心的に貯められるんじゃないか。
これはいいかもしれない、
翌日、昨日入った新人は今日もやらかした。
「前にも同じこと言っただろ!!
なんで同じミスをするんだ!」
「すみません、こっちの方が効率的かと思って」
「そんなのいいから早く片付けろ!!」
今日も一日怒り通しで、
家に帰ると愛妻に抱き付くかのように貯金箱へまっしぐら。
「今日もあのクソ新人は使えなかった!」
「あいつのせいで今日も残業するはめに!」
「なにが効率的だ! 何も知らないくせに!」
「いったい学校でどんな教育受けてきたんだ!」
体の中にため込んでいた愚痴を貯金箱にあびせかける。
相槌も打たなければ、うなづいてもくれない貯金箱。
ただ、1回。
チャリン。
¥2,500
「おお! また貯まった!」
貯金箱の数字が増えるとなんとも言えない幸福感に包まれた。
"苦労したんだね"とねぎらわれている気分になる。
翌日も、その翌日も愚痴を会社に行って愚痴を貯め
家に帰って愚痴を吐き戻す作業が続いた。
みるみる貯金箱の金額は増えていくものの、
仕事になれてきた新人はミスがだんだん少なくなってきた。
「これはまずいぞ!
あいつがミスしてくれなくちゃ
俺の愚痴がたまらない!」
家と会社を往復するだけの日々に、
なにか愚痴として語って聞かせるネタはほぼない。
新人にミスをしてもらわないと金がたまらないのだ。
そこで、翌日、新人に声をかけた。
「やあ、仕事は慣れてきたかい」
「はい、おかげさまでだいぶ慣れました。
今ではもう初日のようなミスもありません」
「いいや、それじゃあダメだ」
「え?」
新人は目を丸くした。
「君には個人的に大いに期待しているんだ。
だからもっと、新しいことを好き勝手やりなさい」
「わかりました、ありがとうございます!」
時限爆弾、セット完了。
はためには、新人をのびのび教育する
すばらしい上司のようにも見えるがその実、
新人のミスを誘発させて愚痴のネタにしたいだけである。
作戦通り、新人は前以上に失敗をやらかしてくれた。
家に帰るなり、怒涛の勢いで愚痴を吐きかけた。
「あのクソ新人がまたやらかした!」
「俺の仕事ばかり増やしやがって」
「だいたい、あいつのしりぬぐいは全部俺だ」
「あんなやついなくなればいいのに!」
チャリン。
貯金箱の金額がたまる。
チャリン。
チャリン。
チャリン。
新人が毎日失敗を繰り返し、俺がそれを愚痴計上した。
そして、ついに貯金箱が目標金額に到達した。
¥1.000,000
「やった! やったぞ! 100万円だ!」
新人が別の部署に異動したのもあり、
これ以上の愚痴貯金は期待できないだろう。
俺はハンマーを取り出して愚痴貯金箱をたたき割った。
中からは札束がばさばさと出てっ来た。
「うはははは! 金持ちだ!」
100万円をつかんで会社に向かった。
この貯金のことを知らなくても、
あの新人に感謝……もとい、自慢したくてたまらない。
新人はすぐに見つかった。
「あ、先輩。どうしたんですか?」
「お前に感謝しようと思ってな!
お前が何度も何度も失敗してくれたおかげで
ほら、見ろ! 100万円がたまったんだ!」
俺は新人に100万円を見せつけた。
「そうですか、僕も先輩に感謝したいことがあるんです」
「え?」
「先輩が何度も挑戦して失敗させてくれたおかげで、
大きく出世することができました。
今では年収1億円です、本当にありがとうございます」
一瞬で100万円がはした金になってしまった。
作品名:愚痴貯金でめざせ億万長者! 作家名:かなりえずき