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靴下に空いた穴

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 生き生きと思い出されてきて、それは今までの色々な思い出と一緒くたになって私の頭を埋め尽くしてしまった。
 全ての色々な事や思い出は、なにか見えない糸かなにかで細かく繋がっているような気がして仕方なかった。なんだか全てが別々の関係ない事とは思えなかった。
 関係なくはないか。私と言う直接結んでいく中心がいるんだから。これは私の記憶と出来事だから、私が知らずに同じキーワードを手繰り寄せているのかもしれない。そうやって手繰り寄せた中から本当の幸せを見出して気付いていくんだ。そしてそれは智とも。

 賑やかな音楽がまだ流れている夜20時のスーパーで、牛肉のパックを選び、もう片方の手ですき焼きの材料をたくさん入れたカートを押して私は買い残した物はないかと考えた。
 そうだ。ビール。もうなかった。せっかくだし。私も飲みたいし買って行こう。肉をカートに入れて、アルコール売り場に向かった。
 ビールコーナーには、びっしりと様々な種類のビールが押し合いへし合い並んでいた。どれがいいのか目がくらむ。
 智が好んで買ってくるのはいつもカラメル色の瓶の・・確か金色のラベルをした・・恵比寿様が描いてある・・そう。これこれ。
 同時に隣から白っぽく荒れた大きな手が伸びて、私が掴んだ同じ銘柄の瓶を取った。
「あ・・・」
 低くて懐かしい声に振り向くと、そこに買い物籠を持った髭が伸び放題になって、煤けたみたいに全体的に黒っぽくなった智が立っていた。
 驚いた事には、智の籠の中身は私のとほとんど変わらないすき焼きの材料らしきものが入っていた。おかしくておかしくて、思わず指して笑ってしまった。本当に繋がっている。
「すき焼き?」
 智も私のカートを覗き見て、本当にいたずらっ子みたいな調子で言った。
「すき焼き」
 私達は笑いながら言い合った。私はおかしくて笑い過ぎて涙がたくさん出た。
「やっぱり、特別な日はすき焼きだよな」
「うん」
 空いた穴はどんなに大きくてもどんなに大変でも、これから2人で編み上げていける。もっと丈夫でもっと明るい色にしていく事だって出来るのだ。
 それは、継ぎ足し継ぎ接ぎのあまり見栄えは良くないものなのかもしれないけれど、愛情と言う毛糸や糸がたくさん編み込まれて詰まっていて、2人にとっては何より暖かくて心地良いものなのだ。お互いの為に涙を流し、お互いを本当に裸で愛し合いながら。こうして私達は生きていくんだな。手を繋いで、それぞれに買い物袋を提げ、私達は家までの帰り道を踏みしめるようにして歩いた。
 2人の周りを所々で灯る電燈に合わせて前後左右ぐるぐる好き勝手に動いているたくさん着膨れた影は、まるで二匹の大きなみの虫みたいに見えた。
 空にはいつのまにか白蝶貝みたいに艶やかな月が出ている。それを見上げながら私は笑った。
 今度の絵本は小さなみの虫を主人公にしよう。智みたいな。クレヨンで太い毛糸みたいな色をたくさん使って。
作品名:靴下に空いた穴 作家名:ぬゑ