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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「化身」 第五話

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「そうじゃのう。事のくだりはこうなんじゃ。関ヶ原で家康殿が勝利した時に村では同じ源氏の血を引く隠れ子孫が名乗りを上げ江戸に向かった。自分を何とか引き立てて欲しいとの願いを込めてな。家康殿はたいそう驚かれ、その身を相応に召し抱える約束を与えて子孫は帰路に着かれた。その時に作治殿の村に泊まられた折に酔った勢いからか村の娘に手を付けたんじゃ」

「わしの村に帰り路で泊まった時に娘を手籠めにしたと?」

「そういう事じゃ。徳川氏の一員になれた喜びと、源氏の血が持つ驕りに我を忘れたのであろう。娘は恥を知り、村の外れで首を吊って死んだ。それを恨んだ娘の父親が後をつけ水無瀬にやって来て、その家に火をつけた」

「復讐のために火をつけたと?」

「そうじゃな。折から風が強く、火はあっという間に隣近所に回り、家から家へと火の粉は飛び散り夜空を血の色に染めた。火の手が収まって夜が明けるとほとんどの家は焼き落ちて灰と化し、数多くの遺体が転がっていたという事じゃ」

「あの鬼が話していたことと同じか・・・」

「いま何と言われた?」

「いえ、独り言です。気になされないように」

「それなら良いが。生き残った者はたった一人。それもよそ者だった。村から出て行っており難を逃れたんじゃ。戻って来てその様子に驚き生きて居るものを探したが見つけられなかった。その日夢の中に一人の娘が現れて、自ら怨念となって火を放った村の男の魂に隠れ、その娘となって代々住むから見つけ出してほしいと。その魂を口にすれば一番願うことを叶えるだろうと話したという事だ」

「魂を口にする?その男に食えと話したと言うのですね?」

「それは解らぬが、伝えられた男はこの白鬚神社にこもり夢に見た少女の頼みを叶えるために自ら鬼となって村へ出向く決心をしたらしい」

「鬼となって出向く?魂を食べるために?そんなことが修行として叶うのですか?」

「さて、それは知らぬが、伝え聞いた話ではそうなっておる」

「ここまでお話しを聞かせて貰えたので正直に申します。これは村の誰にも話してはおりません。実は大晦日の夕暮れに鬼が村の祠に現れ私の許嫁をさらってゆきました。床下に隠れて様子をうかがっておりましたが、今聞いた話と似たようなことを鬼は申しておりました。そして、人間を食べると一年間は人の姿に戻るのだと」

「作治殿の村を襲うのは年に一度大晦日の日だというのだな?」

「ええ、村には毎年大晦日に現れておりました」

その日に鬼がやってくるには訳があったようだ。
作品名:「化身」 第五話 作家名:てっしゅう