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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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やっぱりデジタルは最高だ!

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彼はデジタリアンだった。

「おいおい、お前、まだ彼女できないのか?」

「何言っているんだ。
 生身の人間と会うなんて異常だよ。
 いまどきデジタル彼女さえいれば十分だ」

言いつつ食べているのはデジタル食品。
味のデータを埋め込んだデジタルな食べ物。

彼はデジタル食品しか口にしない。

「普通のラーメンとかもおいしいと思うぜ。
 今度食べに行こう」

「お前、自分が何言ってるのかわかってる?
 そんなことできるわけないじゃないか。
 それに、誰の指が混入しているかもわからないのに」

「潔癖症なのかなんなのか……」

「いいや違うね。僕はデジタリアンなんだ。
 生身のものは何一つ信じないし、必要ない」

彼は立ち上がって大きく叫ぶ。
やっぱりデジタルは最高だ、と。

「そうはいっても、デジタルだけじゃ生きていけないだろ。
 服だって必要だし、ほかにもいろいろと」

「そうなんだよ。
 この世界はデジタルじゃ生きていけないんだ」

珍しくデジタリアンであることに
しおらしさを見せたのに気付いた友達は
ここぞとばかりに更生施設の話題を出すことにした。

「実は、お前みたいなデジタリアンを
 普通のまっとうな人間に更生させてくれる……」

「いっそ、俺がデジタルになればいいんだ!」


「……はい?」


「前から思っていたんだよ。
 どうして自分はデジタルじゃないんだって。
 デジタルなら腹も減らないし、運動しても疲れない。無敵だ。
 眠ることなく365日24時間好きなように動ける!」

「お、おい……」

「そうだよ! どうせデジタルな生活しかしなかったんだ!
 だったら、俺がデジタルになったほうが絶対いい!
 そうだ! 間違いない!」

彼は一目散にアナログ国境へと猛ダッシュ。
友達もまさかこんな展開になるとは思わなかった。

デジタル世界に入るためには、
アナログ国境での面接をパスしなければならない。

とはいえ、彼が生粋のデジタリアンであることは知っているし
おそらく何の障害もなく面接を突破してしまうだろう。

「こ、これはまずいぞ……」

友達は、ほかの友人にすぐ連絡した。



一方、彼はあっという間に面接まで進んでいた。

「デジタル世界への滞在期間は?」

「ずっとです。永久に。ふぉーえばー」

「それはどうして?
 現実が嫌になったからですか?」

「いいえ、今もすでにデジタルに囲われて
 そのうえデジタルといつも一緒に過ごしています。
 もっといい環境こそがデジタル世界なんです」

「ポジティブな理由ですね。
 嫌になったから逃げよう、とかじゃないんですね」

面接官の印象はおおむねよかった。
デジタル世界で悪意を持って向かうわけじゃないし。


ブォンブォン!!
パラリラパラリラ!!


「……なんですか、この音は」

面接会場の扉をぶち破って、
バイクが何十台もなだれ込んできた。

荒れる成人を20倍くらい荒れさせた
気合の入った連中がガラ悪そうに面接会場にやってくる。
その先頭には友達がいた。

「よぉ~ダチが面接ってんでぇ。
 俺ら挨拶に来たんス。どぉーか面接官さん、よろしくっす」

友達はモヒカンを面接官の頭にずりずりとこすりつける。
面接官の顔色はどんどん険しいものに。

「き、君はこんな連中と知り合いなんですか……!?」

「知ってますけど、普段はこんなんじゃありません!
 もっと普通です! 世紀末な感じじゃありません!」

「んなわけないじゃないっすか~~。
 これが俺らの普通っすよぉ。
 俺ら『出死蛇離暗(でじたりあん)』っすから」

友達の思惑通り、面接官の印象はダダ下がり。
最初の印象が良かったからこそ「本心を隠した」と思われた。

これで、彼がデジタル世界に行って
離れ離れになることだけは阻止できた。

友達は「作戦成功」を友達に目くばせして伝えた。



「いい加減にしてくれ!!」


彼が珍しく大きな声を出した。

「なんのつもりなんだよ!
 デジタル世界に行くのは俺の希望なんだ!
 それを邪魔して楽しいのかよ!」

友達たち出死蛇離暗の一同は気付かされた。
結局、自分たちが寂しいから妨害していたんだと。

「……悪かったよ。そうだった。
 離れるのが嫌だったんだ。
 どんなときもずっと一緒だったから……」

友達は面接官に向かって土下座した。

「すみません! 俺たちが悪いんです!
 俺たちはこんなことするクズどもです!
 でも、こいつは……彼は違うんです!
 彼だけは最高な男なんです! だからデジタル世界に……」

「ウソをつきましたね」

面接官は冷ややかに答えた。

「あなたがクズなんてウソです。
 あなたも、彼も、その友人もみんな素晴らしい人じゃないですか。
 いまどき、こんなふうに友達のために
 ここまで親身になってくれる人なんていません」

面接官は彼にパスポートを渡す。

「あなたは素晴らしい友人を持ちましたね。
 こんな人、普通に探していてもそう見つかりませんよ」

「はい、僕の最高の友人です」




そして、彼は電源を切った。

面接会場に集まっていたデジタル友達は
まとめて一瞬で消えてしまった。

「やっぱりデジタルは最高ですよね。
 現実の人間はここまでしないし、デジタルよりドライです。
 それじゃ、みなさんさようなら」

彼はデジタルへと分解されて
今もデジタルの海の中を最高に自由に過ごしている。

「やっぱりデジタルは最高だ!!」