「化身」 第二話
「それは解らんよ。相手が人間だったら効き目は期待できないと言ったまでだ」
作治はそのようなことになったら自分がみんなから蔑まされると感じてきた。
大晦日の夜にやってくる妖怪がその姿を借りた人間だとしたら、勇気を出して退治することが叶うとも思えた。
ハッキリと姿を見たものはすべて殺されている。そのすさまじさから人ではなく妖怪だと騒いでいるのだとすれば、自分が真相を確かめる価値はあると思えてきたのだ。
村に戻った作治はあることを思いついた。それは誰にも内緒で行うと決めていた。
村長を囲んで作治は役目を褒められた。
「よくやってくれた。娘も帰って来て二重の喜びだ。さて人質の件だが、菊に頼もうと思っておる。これはお前たちが戻って来てからみんなの意見を聞いて決めた。両親も納得しておる。もちろん菊本人もだ」
「村長!助かった身体を人質にするというのですか?酷い仕打ちですよ」
「何を言う。村から出て行く使命を背負っていたんだ。同じようなものだ。これは覆せないぞ」
「菊が不憫だ」
作治は本当にそう思っていた。トリカブトを手に入れられたことには菊の手助けもあったからだと思えるからだ。
三十一日の朝に菊は湯あみをして村の入り口の地蔵がある祠に閉じ込められた。
妖怪が来る夕暮れの時間に扉が解放され、菊の姿が目に付くようにするという算段であった。
毒を塗る役目をどうしても自分がすると村長に頼み込んで作治は許しを得た。
昼ご飯を運んできた作治を見て菊は驚いた。
「何故わたくしの所へ来られたのですか?」
「ああ、この毒をお前の身体に塗る役目を仰せつかったからだよ」
「えっ?男の作治さまがわたくしの身体に毒を塗るお役目を?それはまことですか」
「まことだから来たのだ。これにはもっと大きな理由がある。いいか、よく聞くんだ」
「どのような理由があると言われるのですか?」
「薬師が話してくれたように、妖怪だと思われている奴は人間かも知れないと考えるようになったんだ。だから、お前の身体に毒を塗ってもまさか舐めるわけではないだろうから効き目が無い。ここまでは解るな?」
「はい。村長はそのことをどう言われたのですか?」
「誰にも話してはいない。ややこしくしたくないんだ。おれとお前でやつを退治する。いいか?もし妖怪だったらおれは殺される。しかし、お前の身体に塗った毒でやつは死ぬ。妖怪ではなく人間だったらおれはこのトリカブトを塗った矢で奴の胸板を貫く。どちらにしても倒せる方法はこれしかないんだ」
「ご一緒にここで待つと言われるのですか?」
「ああ、しかし、見られてはいけないので床下に隠れる。前もって準備はしてある」
そう言って菊を安心させた。