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イド

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充実した日々を送る中で、壁にヒビができて私の心に雨水が染みていく。雨水のphは若干低い。どちらかというと、化学的に危険なものである。というのも、その時、私の中で、大きな力が目覚めたのだ。素晴らしい体験だった。朝日が昇り、巨大な雲塊が、空を覆う瞬間。私の意識の中で、ビックバンが起こり、ヴェルディの怒りの日が脳内を駆け巡る。日々の生活が、ヒビになり、腐臭を漂わせる液体が、もれ出る。そんな、世界を変革するべく立ち上がる使命に燃えるイド。彼の影響は、私の心に生命の誕生をもたらした。巨大な飛行船が空を滑空している時、イドと私は、さらに遥か遠くの空を飛んでいる。まだ、地球が動いていなかった時代にさかのぼる。人間は、鳥だったのだ。そして、イドと私は、初めて手をとりあって空を飛んだ二人だった。やがて、二人の人間は、つまりイドと私は、鳥になってしまった。人間たちを見下ろす生活から4億年の月日が過ぎた。イドと私は、相変わらず生きていたし、この生は永遠に続くものだと思っていた。でも、イドが死んでから十年も立つ。あれから、私は、無為な生活を送っていたが、やがて、立ち上がる。それが、力の源泉なのだ。力とは、蒸気である。力とは熱である。それが、いわゆる真理である。そう思ってきた。イドが、そう言ったから。イドのいない世界は、日没の終わった夜だった。しかも、希望の星が見えない夜。それが、何よりも寂しかった。空を見上げた時、空には、黒いキャンパスしかなかったのだ。もし、イドが生きていたら、怒っただろう。なぜなら、イドは、星を愛していたから。私を愛していたように、星を愛でていた。イドの死は今となっては、必然だった。イドとは、私の中の私だったのだ。二人は一人であり、一人は二人であった。あまりにも、巨大な精神は、時として、豊かな大地に砂漠を生み出すものだ。それが、どうしても嫌というならば、私たちは、生きることをやめなければならなかった。イドを嫌ったのは、どうして?わからない。人間の心、特に自分の心は、空虚な模型なのだ。プラスチックで組み上げられた帆船のように。反戦を叫ぶ人間たちを、誅する武断家たちは、やがて、イドを生贄にする。それは、わかるが、イドを嫌う必要があったのか?私たちは、そもそも誰かを嫌う必要などないのだ。それは、ただの自己満足に過ぎない。慈しむ精神は、時として、残酷だ。もし、その精神が失われた時、奇怪な怪物が姿を現す。その怪物は、イドを殺した時のように、津波のように全てを破壊してしまう。残ったものは、朽ちた松のみ。私は、イドを待っていた。それが、イドを嫌う理由だったのだ。今感じるはっきりとした強迫観念は、イドによってもたらされたのだ。イド。私は、幸せになりたい。イドは、みんなを幸せにしたかった。だから、私を愛した。でも、私は、私だけを幸せにしたかったのだ。イドは、みんなのために死んだ。それが、一つの贖罪だったのだ。空を飛ぶ人間の贖罪。おかげで、私は、一人の年をとる人間として、生まれ変わった。イド。君は、どこにいる?今でも時々思う。きっと、イドは、天国になど行かない。地獄にも行かない。私の世界のとても遠くの街にいるだろう。そして、はたを折っているはずだ。イド。今日の出来はどうだい?「上々だよ」とイドは答えた気がした。きっと、それは、本当に私の想像なんだろう。ありがとうイド。さようならイド。
作品名:イド 作家名:七夕ハル