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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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サムライxフラメンコ

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さぁさ、今宵語るのは不運な男のお話だ。
何事も自分の思い通りにはいかないってお話さ。


今は昔の時代。
まだちょんまげ結ったお侍さんが
刀を引っさげて歩いていた時代にひとりの男がいたわけだ。

名前を……いや、これは後にしておこう。

まあ、その男が今日もひとりで飲み屋をふらふらり。

刀の腕も普通で、顔も普通とくりゃ、
この時代の男に残されたことなんて飲み明かすことぐらいでさぁ。

ところが、その日だけは違ったんだなぁ。


向かいの席に見慣れない男がぽつんと一人。
身なりもお侍さんとは程遠い恰好をしているわけよ。

男は酒の勢いに負けて話しかけたわけだ。

「やあ、どうも。
 あんたは見慣れない顔だが異国の人かい?」

「ええ、そうです。
 この先に行くために、ちょっと寄ったんです」

男と異国の人間はすぐに意気統合。
すっかり仲良くなったんてんで、異国の話をいろいろ聞かせてもらったわけさ。

「私の国ではフラメンコという踊りがあるんですよ」

その一言で男の人生は一変して、
さらにやり方をイチから教わってもう二変、三変したわけだ。

男はすっかりフラメンコの魅力に取りつかれて、
あれだけ大事にしていた刀すらほっぽって―ー


「なあ、大将。
 いいから早くオチを教えてくれよ」

「おいおいせっかちだねぇ。
 最近の客はすぐに結論を求めるからいけねぇ。
 ここからがこの話のミソだってのに」

「ミソでもクソでもいいから進めてくれよ。
 長い話はとんと眠くなって叶わねぇや」



さてさて、フラメンコの魅力に取りつかれたその男。

何をしたかと思えば熱心な布教活動ときたもんだ。
なにせフラメンコは踊るだけじゃねぇの知ってるかい?
音を用意する人から何まで頭数が必要なんだ。

ああ、その通り。だぁれも集まりはしなかったさ。

「ちくしょう! なんでみんなこの良さがわからないんだ!」

男は悩んで迷走して苦しんで、
誰も見えていない道で必死にフラメンコを踊った。


悲しいねぇ。
いつの時代も努力は報われないことが多いってんだ。

まして、踊りなんて広まりにくいその当時。
異国から伝来したフラメンコ楽器すら壊されてしまったのさ。

なんでかって?
そりゃあ、お侍が踊っているのが許せない人がいたんだろうさ。

男は悩んだ。

「せめてフラメンコをちゃんと踊れる場所があれば……」

道で通行人相手に踊ったところで反感を買う。
男は今でいうダンススタジオを求めて必死に探した。


「そんなのわるわけねぇ」

「おいおい、茶々入れるんじゃないよ。
 せっかく人が気持ちよく話しているんだから」


んで、男はついにいい場所を見つけたのさ。

それがお寺。
ここなら琵琶やらなにやら楽器はそろっているし
刀を持った血走り眼のお侍がやってくることもねぇからな。


「ようし、ここでたくさん踊ってフラメンコの良さを伝えよう!」

男はお寺でフラメンコを踊り続けた、これがよかった。


人生に疲れた人が路頭に迷っていった先に、
自分の知らない世界が待っているんだ。魅了されないわけがねぇ。

お寺からブームになったフラメンコは
あっという間に巷に広まっていったってわけさ。

めでたしめでたし。





ただし、フラメンコなんてなじみのねぇ名前じゃなかった。
巷で使われた名前はもっとシンプルで分かりやすい名前さぁ。


踊念仏になったわけよ。


男の広めようとしたフラメンコは広まったが、
男の伝えたかった魅力はまるで伝わらずに
ただの新しいおもしろ宗教として時代を席巻したってオチさ。

なにごとも、自分の思い通りにはいかねぇって話さぁ。


「おいおい大将。ここで終わりかい?
 男の名前を言い忘れているじゃねぇか。
 このままじゃ気持ち悪くって夜も眠れねぇや」

「へぇ、名前を 一遍 といいます」

「大将。あんたの名前を聞いてるんじゃないよ。
 その話に出てくる男の名前をあたしゃ聞いてるんだよ」