小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

やさしいのはもう飽きた!

INDEX|1ページ/1ページ|

 
2016.1.22

「やっべ、もうすぐ性格期限切れるな」

「もう、どうして事前に買いだめしておかないのよ。
 早く同じ性格買ってきなって」

言われなくてもわかってる。
口うるさい恋人にイラつきながらも性格スーパーへと向かった。

俺の「やさしい」性格の消費期限は今日まで。

期限が切れれば本来のおぞましい性格がきっと顔を出す。
みんな自分に性格という服を着せて生活している。

「お、あった」

いつもの場所にいつも通りにある「やさしさ」性格を手に取る。
その横にふと新商品の「にくしょくけい」という性格があった。

「……たまにはいいかな」

性格期限も切れるわけだし、
俺は「やさしさ」を戻して「にくしょくけい」を買って帰った。

「やさしさ、あった?」

「あーー……うん」

恋人には黙って肉食系の性格を入れる。
その日から世界は大きく変わった。


「キャーー! こっち見てぇ!」
「罵ってぇ! 罵倒してぇ!」
「壁ドンしてー! 床ドンしてー!」

女子からの黄色い歓声が沸き上がる。
まったく、困った子猫ちゃんたちだぜ。

性格を新しくしてからというものモテすぎて困る。
こんなにも世界は俺の肉食系を求めていたとはな。

「お前らみんな、今日から俺の奴隷だ」

「「「 きゃーーー!! 」」」

メスどもはそのまま仰向けに倒れて動かなくなる。

今まで自分が「やさしさ」を選んでいたことを後悔した。
やさしさなんて、あって当然と思われるだけの
なんの得もしないクソ性格だったんだ。

女の子数人をお持ち帰りして家に帰ると、
仁王立ち+般若顔の恋人が待っていた。

「……なにしてんの?」

「フッ……俺という共有財産を
 もっと多くの人と味わいたいと思ってね」

そこから2人きりで恋人の説教がはじまった。


「どうしちゃったの!? 最近変だよ!
 前まではあんなことしなかったじゃん!」

「ソウダネー」

「もっと優しくて、誰にでも優しくて
 どんな時も優しくて、いつでも優しかったじゃない!」

「ソンナコトモアリマシター」

黙っていれば、見た目そのままに
中身の性格だけ入れ替えたことなんてわかりはしない。

……と、思っていたが。

女というのはまったく鋭い。

腹立たしいのは前の性格の時には感謝すらしなかったくせに、
今になって俺に「やさしさ」を求めてくることだ。

「お願いだから、前のあなたに戻ってよ!!」

「……わかったよ」

その夜、俺はこっそり寝ている恋人のもとにやってきた。

「ふふふ……戻るわけないだろ。
 お前ひとりが優しい俺を求めたところで
 もっと大勢が肉食系の俺を求めているんだ」

だから、間違っているのは俺ではない。
寝ている恋人の首元をチェックする。


2017.1.15


性格期限はまだかなり残っている。
俺は持ってきたペンで日付を変えた。


2016.1.15


「これでよし。これで明日からは恋人本来の性格になるわけだ」

とりつくろわない性格が露見すれば、
それを口実に別れ話にまで持っていくことができる。

そうなれば、俺の肉食系ライフが続けられるはずだ。


翌日、俺の作戦はものの見事に打ち破られた。

「あんた私の性格変えただろコラァァァァ!!」

「ひーーっ! 助けてぇぇ!」

元ヤンだったなんて聞いてない。
おっさん臭くなった彼女に幻滅する、というシナリオのはずが
より暴力的に進化した彼女に蹂躙されてしまった。

「前のてめぇならこんなことしなかったぞコラァ!
 元の性格に戻らせてやるから覚悟しろゴラァァァ!!」

す巻きにされて、俺は性格スーパーに付き添われた。
彼女の性格「おしとやか」を補充するとともに、
俺の性格「やさしい」までしっかり買って帰った。

「もし、元の性格に戻らなかった……わかるね?」

木刀が鼻先に突きつけられる。
これじゃ恋人じゃなくて女王様じゃないか。

女王様に逆らうわけにいかず、
俺は以前の「やさしい」の横に置かれた
買ってきた「やさしい」性格を手に取った。

「まあ、でも、優しい男もきっとモテるだろ」

名残惜しさは感じつつも、
まだ期限の残る「にくしょくけい」を捨てて「やさしい」に変えた。



そこから、俺に群がっていた女子はいなくなった。

「やっぱりな……」

「やっぱりあなたはその性格が一番ね」

恋人には好評だがこの性格でいいことなんて何もない。
今だって、ごく自然に恋人の荷物をもって車道側を歩いて
怒らせないように気を使い、歩幅を合わせて歩いている。

もうめっちゃ疲れる。

「はぁ……優しさなんて、苦労するだけの性格だ」

ため息をついて、ふと前を見た時だった。

赤信号で突っ込んで来るトラックの先に、
杖をついたおばあちゃんが歩いている。


「あ、危ないっ!!」


キキーーッ!!








すんでのところでおばあちゃんを救出し、
誰一人けがをしないですんだ。

とはいえ、アスファルトにスライディングを決めた
俺とおばあちゃんの服は破れてしまった。

「ありがとう存じます。ありがとう存じます」

「いいえ、俺は"やさしい"人ですから。
 体が自然と動いただけですよ」

恋人が駆けつけると、俺の首筋を見て驚いていた。

「あっ、その期限って……!」


2016.1.22


「もう期限切れている性格じゃない!」

「えっ? まさか取り違えたのか!?」

新しく「やさしい」を買ったあとに、
間違って古い方の性格を入れてしまったんだ。

それじゃ今の俺は……俺も知らない本来の性格。

「……ふふ、やっぱりあなたは素敵な人ね。
 本来の性格の方が前よりずっと素敵だわ」

恋人はにっこりとほほ笑んだ。



そんなことより
俺はさっきからはだけたおばあちゃんの肌に釘付けだった。

こんな性格だったなんて、知りたくもなかった。