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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅱ

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 互いにメンバーを簡単に紹介し合った後、第1部長の日垣が、いかにも手馴れた様子で、相手国向けのブリーフィングを始めた。防衛駐在官として海外赴任を経験した彼は、英語も流暢なら、話し方も、立ち振る舞いも、実に洗練されていた。柔らかな物腰の中にも、階級に相応しい威厳がある。残業時間中に気さくに話しかけてくる時の優しい表情とは少し違う、引き締まった顔……。
 美紗は、モニターを背に淀みなく語る上官の姿にいつのまにか見入っていたことに気付き、慌てて仕事に意識を集中した。日垣に続き、地域担当部の各部長が担当地域のテロ問題について詳細説明を行うと、会議は質疑応答へと移っていった。幸いなことに、今回の「お客」は、非英語圏の人間との会議に慣れているのか、無遠慮に早口でまくしたてることもなく、美紗を安堵させた。

 後半は、米国側がテロ問題全般に関するブリーフィングと情報提供を行い、それに基づいて、二国間が討議する形式になった。双方が活発に発言する内容を、美紗は素早く記録していった。午前中の「予習」が効いたのか、討議内容についていくのは予想していたより楽だった。進行役の日垣は、双方のやり取りをコントロールしながら、時折、両国の言葉で注釈を加えては発言者を補佐し、二か国間の意思疎通を助けていた。

 一時間以上続いた美紗の仕事は、特段の支障なく終了した。参加者が席を立ち、名刺交換をしながら雑談する中、美紗は、簡易机に座ったまま、ノートに早書きした記録内容をチェックした。第1部長と直轄班長に満足してもらえる出来になったか定かではないが、そこそこ形に出来たという自信はあった。
 ほっと小さく息をついた美紗は、周囲が妙に静かなことに気付いた。顔を上げると、部屋の中には誰もいなかった。半開きになった扉の向こうで、何人かが言葉を交わしているのが聞こえる。そういえば、自国の出席者が退席するタイミングで部屋を出るように、と言われていた。
 美紗は、急いで手元の会議資料と筆記具類をかき集めると、それらを書類ケースと一緒に腕に抱えた。会議場に近い別の部屋で、ノートに早書きしたものを議事録に作り直せば、「初仕事」は終わる。